日本大百科全書(ニッポニカ) 「時の娘」の意味・わかりやすい解説
時の娘
ときのむすめ
The Daughter of Time
イギリスの女性推理作家ジョセフィン・テイJosephine Tey(1896―1952)の代表作。1951年刊。ロンドン警視庁の敏腕警部A・グラントは、職務上のけがでベッドから動けなくなり、暇つぶしにとんでもない事件に挑むことにした。イギリス史上で悪名高いリチャード3世が、親戚(しんせき)の2人の少年を殺したという事件である。警部はこれに疑いをもち、アメリカ人の友人にベッドの上からいろいろ指示をして資料を集めさせる。安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)という、自らは動かずに頭脳だけで推理する型をもう一つ発展させ、また事件を遠い過去にもっていった異色作品である。テイには『フランチャイズ事件』(1948)といった佳作もあり、比較的高級な推理ファンをつかんでいる。
[梶 龍雄]
『小泉喜美子訳『時の娘』(ハヤカワ文庫)』