内科学 第10版 「書痙、上肢ジストニア」の解説
書痙、上肢ジストニア(錐体外路系の変性疾患)
上肢ジストニアは,上肢筋の常同的な異常収縮により,上肢の肢位異常や運動異常をきたす.全身性ジストニアの初発症状,または頓挫型(forme fruste)の場合もある.書痙や,大半の奏楽手痙(musician’s cramp)は上肢ジストニアに含まれる.書痙や奏楽手痙では,発症早期にはほかの動作は正常に行えることが多い(動作特異性(task specificity))が,多くの症例では動作特異性は次第に消失する.また,使用する上肢を対側に変えても(利き腕交換など),しばらくして対側にも発症することが多い.身体の一部(多くは罹患部)を触れることで症状が軽快することがある(感覚トリック).
書痙は男性に多く,発症年齢は30~40歳代に多い.書字の際に上肢筋活動の随意調節困難を生じ,書字が円滑にできなくなる.当初は患者にとって特異的な運動を開始したときに生じる.特定の筋の緊張亢進を呈する場合が多いが,明らかな筋緊張亢進を伴わない随意運動困難のみの場合もある.また,書字には直接使用しない筋の異常収縮を呈する例もある(オーバーフロー現象(overflow phenomenon)).なお,書痙は職業性ジストニア,動作特異性ジストニア(task specific dystonia)の1つである.職業性ジストニアにはいわゆる奏楽手痙(手,口など)や,調理師,床屋などで手,上腕などにみられる.動作特異性ジストニアは①身体の一部に局所性もしくは分節性ジストニアが存在する.②一定の作業姿勢を持続する必要がある作業や身体の一部を反復して使用する作業を行っており,その作業に携わる以前にはジストニア症状が出現していない.③その作業において常態とする姿勢や動作と,ジストニア運動やジストニア肢位との間に,位置や動作における関連性が認められる.④病初期においてはその作業によりジストニア症状が出現もしくは増悪する.⑤ジストニアを呈しうる疾患(脳血管障害,脳性麻痺,頭部外傷など)が存在せず,薬剤性ジストニアが否定できる.これらの①~⑤のすべてを満たす場合に診断する. 鑑別診断では他種の運動異常症,特に書字振戦,遺伝性全身性ジストニアの頓挫型があげられる. ボツリヌス毒素注射が有効であるが,日本では未承認.muscle afferent block療法(MAB療法)も有効である.また,定位脳手術も試みられている.[長谷川一子]
■文献
Brin MF, Comella CL, et al: Dystonia: Etiology, Clinical Features, and Treatment, Lippincott Williams and Wilkins, Philadelphia, 2004.
長谷川一子編著:ジストニア2012,中外医学社,東京,2012.
目崎高広,梶 龍兒:ジストニアとボツリヌス治療,改訂第2版,診断と治療社,東京,2005.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報