改訂新版 世界大百科事典 「権八小紫物」の意味・わかりやすい解説
権八小紫物 (ごんぱちこむらさきもの)
歌舞伎狂言の一系統。鳥取藩士平井権八は本庄助太夫を殺して江戸へ逃げ,強盗殺人を犯して自首し,1679年(延宝7)11月3日処刑され,愛人である吉原三浦屋の遊女小紫がその墓前で自害した。以上,目黒に残る比翼塚の由来による。これに,時代にずれがあって関係ないはずの俠客幡随院長兵衛を結びつけて脚色したものが多い。その最初は1779年(安永8)5月江戸森田座の《江戸名所緑曾我(えどめいしよみどりそが)》で,7月江戸肥前座には人形浄瑠璃の《驪山比翼塚(めぐろひよくづか)》が登場した。その後初世並木五瓶作《思花街容性(おもわくくるわかたぎ)》,初世桜田治助作《契情吾妻鑑(けいせいあづまかがみ)》,4世鶴屋南北作《霊験曾我籬(れいげんそがのかみがき)》,福森久助作《比翼蝶春曾我菊(ひよくのちようはるのそがぎく)》(作中の清元《其小唄夢廓(そのこうたゆめもよしわら)》は今も流行)などを経て,1823年(文政6)3月江戸市村座の南北作《浮世柄比翼稲妻(うきよづかひよくのいなずま)》が決定版。通し上演のほか,〈鈴ヶ森の場〉は通称《鈴ヶ森》として上演される。
執筆者:井草 利夫
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