江戸前期,江戸で名のあった町奴(まちやつこ)。〈町六法ノ頭取イタシ候者〉(《承寛襍録》)と表現しているものもある。武家の出身で江戸花川戸に住み,口入れを稼業としていたが任俠の風に富み,町奴の頭目となった。幡随院住職と親しかったので,幡随院を名のったといわれている。1657年7月,旗本水野十郎左衛門に殺害された。長兵衛について伝えられる話は,歌舞伎,講談などで作られたものが多い。
執筆者:林 亮勝
歌舞伎では《碝(さざれいし)末広源氏》(1744年1月,中村座)に長兵衛が登場したのが早い。実録本《幡随院長兵衛一代記》(成立年不詳)や多くの歌舞伎では,小紫,平井権八(ごんぱち)の情話(権八小紫物)に付加して潤色されたが,権八の実説は長兵衛没後の事件で,鈴ヶ森で2人が出会う有名なシーンはまったくの架空である。浄瑠璃の《驪山比翼塚(めぐろひよくづか)》(1779年7月,江戸肥前座)のほかに歌舞伎作品として,初世並木五瓶,初世桜田治助,4世鶴屋南北らの諸作がある。また小紫,権八の筋から独立した《極付幡随長兵衛(きわめつきばんずいちようべえ)》(俗称《湯殿の長兵衛》)が著名。長兵衛は,旗本奴と対立抗争し悲壮な最期を遂げたことにより,町人層の〈俠〉の精神を具現した人物として,江戸庶民に英雄視され,助六と並んで敬愛された。近代に入ってからも,岡本綺堂,藤森成吉が戯曲化,上演した。
執筆者:小池 章太郎
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江戸初期の侠客(きょうかく)。幡随長兵衛ともよばれる。肥前(ひぜん)唐津の浪人の子で、本名を塚本伊太郎と称したという。人を殺して死罪になるところを幡随院の住職に救われ町人になったという説と、住職の親族だったという説がある。江戸・花川戸に住み、大名・旗本へ奉公人を斡旋(あっせん)する貸元業を始めたが、腕と度胸、強い統率力が役だち、侠気を売り物とする男伊達(おとこだて)としても成功、当時の戦国の気風が残る豪放な世相を反映して、市中を闊歩(かっぽ)していた唐犬(とうけん)権兵衛、放駒(はなれごま)四郎兵衛らの町奴(まちやっこ)の首領格となった。その結果、水野十郎左衛門の率いる旗本奴との対立が高じ、水野邸の湯殿で殺された。1650年(慶安3)とも57年(明暦3)ともいう。
その生涯は歌舞伎(かぶき)、講釈をはじめ、明治以降は小説、映画などに数多く脚色された。とくに江戸期の歌舞伎脚本は、史実では時代の異なる白井権八と三浦屋小紫の情話に絡ませて扱うことが多く、一つの脚本系列をなしている。おもな作品は、初世桜田治助(じすけ)作『幡随長兵衛精進俎板(しょうじんまないた)』(1803)、4世鶴屋南北(なんぼく)の『浮世柄比翼稲妻(うきよがらひよくのいなずま)』(1823)などで、とくに後者で長兵衛と権八が初めて対面する「鈴ヶ森」の場面が有名。今日では、明治期に実録本に沿って河竹黙阿弥(もくあみ)が書いた『極付(きわめつけ)幡随長兵衛』(1881)がもっともよく上演される。
[松井俊諭]
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(上村以和於)
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出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…雁金五人男は1702年9月大坂岡本文弥座上演の人形浄瑠璃《雁金文七秋の霜》が最初で,《男作五雁金(おとこだていつつかりがね)》(1742年7月大坂竹本座,竹田出雲作)など多くの作を生んだ。また上方では黒船忠右衛門,梅の由兵衛など,歌舞伎・人形浄瑠璃に数々の俠客物が生まれたが,一方江戸でも,79年(安永8)7月肥前座所演の人形浄瑠璃《驪山(めぐろ)比翼塚》(源平藤橘ら作)以降の幡随院長兵衛の劇化,また1713年(正徳3)4月山村座《花館愛護桜(はなやかたあいごのさくら)》以降の十八番系の助六劇が盛行し,江戸っ子精神を代表する任俠としてもてはやされた。本朝丸綱五郎や朝比奈藤兵衛など実在しない俠客も創作され,77年5月中村座《本町育浮名花聟(ほんちようそだちうきなのはなむこ)》,1760年(宝暦10)7月竹本座《極彩色娘扇(ごくさいしきむすめおうぎ)》などの情話中の任俠として描かれている。…
…以上,目黒に残る比翼塚の由来による。これに,時代にずれがあって関係ないはずの俠客幡随院長兵衛を結びつけて脚色したものが多い。その最初は1779年(安永8)5月江戸森田座の《江戸名所緑曾我(えどめいしよみどりそが)》で,7月江戸肥前座には人形浄瑠璃の《驪山比翼塚(めぐろひよくづか)》が登場した。…
※「幡随院長兵衛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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