…いわば〈天皇の国〉は,ヨーロッパの君主制に基づく〈文明の統治〉として政治を展開しながらも,国家と民衆の亀裂を内包しているがために,国家的危機において常に〈国体神話〉による天皇信仰を強調せねばならなかった。その一端は,日露戦争後の国軍が物質的威力に勝る精神力の優位を説き,やがて昭和初頭に軍隊の大衆化に対して〈必勝の信念〉を支えるものとして〈天皇信仰〉の発露を力説し,15年戦争下で〈天皇親率〉の〈皇軍〉意識を強調しなくてはならなくなった軍隊の姿にもうかがえよう。 このことは,〈事ヲ統テ事ヲ執ラス〉という天皇の名による政治が行きづまったとき,国体神話による天皇イデオロギーをあらわとするしか民族的結集がはかれなかったことと共通する世界にほかならない。…
…同時に近代的軍事力の創出が富国を保障するものとして重視され,国民皆兵主義にもとづき銃砲中心の軍隊の建設を推進した。当初陸軍はフランス,海軍はイギリスを範としたが,のちには陸軍はドイツを範とし,政府から独立した天皇直属の軍隊(皇軍)として強大化した。富国強兵はたんに国家的自立の維持のみならず欧米にならった植民帝国の建設をめざすようになり,朝鮮,中国あるいは南方への経済的・軍事的進出をも意味するようになった。…
※「皇軍」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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