文法用語。品詞の一つ。「太郎」「学生」「本」「学校」「春」「友情」「研究」「泳ぎ」「高さ」など、事物、動作、状態などを名詞として表現でき、もっとも語数の豊富な品詞である。ドイツ語の名詞のように、性、数、格によって語尾変化のあるものは、その語形から名詞であることがわかるが、日本語ではこのようなことはない。構文論的機能としては「太郎が本を読む」のように主語、目的語になったり、「太郎は学生だ」のように述語になったりする。つまり格助詞の「が」「を」をとったり、「だ」の前にきたりするのが名詞であるということができる。そのほか「3時に図書館で会おう」のように、「に」や「で」をとって時や所を表すのも名詞である。「きのう本を3冊買った」の「きのう」や「3冊」も名詞であるが、格助詞をとらず副詞的な用法といわれる。また「文法の本」のように、「の」をとってあとにくる名詞を形容する働きもある。「働き」「勝ち」「負け」のように動詞から派生した名詞、「高さ」「長さ」「強み」「弱み」のように形容詞から派生した名詞もある。複合名詞は、「春風」「核実験」「人工衛星」「大陸間弾道弾」のように、名詞を二つまたはそれ以上組み合わせたり、「白うさぎ」「細道」「枯れ草」「川遊び」「切られ与三郎」など形容詞または動詞と組み合わせてつくった名詞である。
[奥津敬一郎]
名詞には種々な分類がある。普通名詞(「学生」「犬」「本」など)、固有名詞(「太郎」「東京」「富士山」など)、抽象名詞(「友情」「親切」「恐れ」など)、具象名詞(「太郎」「猫」「紙」など)、集合名詞(「家族」「国民」など)、物質名詞(「水」「空気」「鉄」など)、有生名詞(「太郎」「ねずみ」など)、無生名詞(「山」「石」「木」など)などである。「太陽」や「月」は一つしかないが、これは固有名詞か普通名詞かなど、これらの分類の定義にも問題が多いし、前述の分類のなかで、日本語ではあまり意味のないものもある。また、これらの分類はかならずしも上下分類できるものではなく、交差分類をなすものもある。たとえば、「学生」は普通名詞であり、具象名詞であり、有生名詞である。「太郎」は固有名詞という点で「学生」とは違うが、具象名詞、有生名詞という点で共通する。そこで、名詞の上下分類でなく、具象性〈+concrete〉、抽象性〈-concrete〉、有生性〈+animate〉、無生性〈-animate〉などの素性(そせい)を、それぞれの名詞につけるほうが整合的である。これらの素性は、有生名詞を主語として「犬が眠る」は自然であるが、無生の抽象名詞を主語として「考えが眠る」は、特殊な表現の場合以外には不自然であるなど、述語との共起関係で正しい文をつくるために重要な働きをしている。
話し手の立場から自分自身を「私」「ぼく」とよび、聞き手を「あなた」「君」とよび、第三者を「彼」「彼女」「彼ら」とよぶいわゆる代名詞もあるが、日本語と英語ではその用法がかなり異なる。「これ、それ、あれ、どれ」「ここ、そこ、あそこ、どこ」など、いわゆるコソアド語も一つの体系をなす名詞群である。日本語の数量詞は、「1」「2」「3」などの数詞と、「冊」「匹(ひき)」「軒(けん)」などの助数詞とからなる点で注目される。「3匹の子豚」「子豚3匹」などの数量詞が、「昔ある所に子豚が3匹住んでいました」のように、主たる名詞から分離して使われるのも日本語の特色である。そのほか日本語文法では、「の」「こと」「もの」などの形式名詞や、「前」「後」「上」「下」「左」「右」などの相対名詞などがあげられる。
[奥津敬一郎]
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…こうした範疇を従来より品詞parts of speechと呼んできた。名詞とか動詞とかと呼ばれているものがそれである。
【品詞の本質】
単語というものは,その圧倒的多数が現実世界に存在する何か(事物,運動・動作,性質,関係等)を表している。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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