… 焼畑農耕民の場合にも陸稲栽培の折り目ごとに農耕儀礼(稲作儀礼)が行われている。例えばボルネオのクニャー(ケンヤー)族の場合には,(1)焼畑地選定の際に卜占を行い,(2)開墾の日を決定するときにも卜占により,(3)もみまき直前に稲魂(いなだま)を招く儀礼があり,(4)稲の生長を祈って豚と鶏を供犠し,(5)そして最後に収穫儀礼を行うが,このときまず稲魂を宿した稲から刈り取ることが定められている。これらの儀礼を通じて見られる特色は,水田稲作民のそれに比べてより呪術的な色彩がつよく,儀礼のなかにさまざまな卜占が組みこまれていることである。…
…また,石川県の能登半島の一部の農村では,収穫儀礼をアエノコトといって,その日,田の神がたんぼから家に帰ると伝えられ,農家の主人が正装して,たんぼに出かけて田の神を迎え,家にお連れしてふろ(風呂)に入れ,ごちそうをととのえて田の神を供応する。ここでは,東南アジアの稲魂(いなだま)と同じように,田の神が擬人化され,男神とも女神ともいわれている。田植儀礼もこうした播種儀礼や収穫儀礼と同じように,田の神の祭りである。…
…したがってタマは,外来魂といえる。たとえば稲のタマは稲魂とか倉稲魂(うかのみたま)と表現されている。稲魂が,稲穂や穀物に付着することにより,豊穣がもたらされると考えられている。…
…穀霊観念とこれに基づく儀礼・慣行は,程度の差はあれ,未開,文明を問わず,穀物栽培を生業とする諸民族に広く分布するが,典型的なものは稲作地帯に見られる。多くはイネの精霊・霊魂(稲霊・稲魂(いなだま))が,人間と同様に誕生(発芽),成長,成熟,死(枯死),再生の過程を繰り返すとの観念に基づいている。 タイでは,イネには穀母が宿っていて,それは人間と同様に〈クワンkhwan〉(魂)をもつと信じられている。…
※「稲魂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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