改訂新版 世界大百科事典 「絹市」の意味・わかりやすい解説
絹市 (きぬいち)
絹を主として取引する市。江戸時代,関東西部の織物生産地帯では,都市の問屋が市を,その地の織物を仕入れる機会として利用した。上州から武州にかけての山地地域では,織物生産がさかんになると,これまで各種の商品を取引していた市が,織物を主要な商品とするように変わっていった。元禄ころは諸種の商品が取引されていた上州藤岡の市も,近世後期には関東生絹の代表的集荷市となった。1742年(寛保2)に設立された甲州上野原の市は,商品ごとに分かれた11の座で構成されていたが,設立後間もなく,絹・紬を主要な商品とするようになった。関東西部の絹市で仕入れる商人は,はじめは京都の問屋が主であったが,江戸地回り経済の展開とともに江戸の問屋の活躍が目ざましく,買宿を指定するなどして買付けに当たり,絹市は江戸の問屋の織物仕入機関化していった。
執筆者:伊藤 好一
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