言甲斐無(読み)いうかいなし

精選版 日本国語大辞典 「言甲斐無」の意味・読み・例文・類語

いうかい‐な・し いふかひ‥【言甲斐無】

〘形ク〙
① あれこれ言ってもしかたがない。
(イ) 取り返しがつかない。話にならない。はりあいがない。言いがいない。
※土左(935頃)承平五年二月一六日「ききしよりもましていふかひなくぞこぼれやぶれたる」
※枕(10C終)二九二「たふとうめでたかべいことも、雨だに降れば、いふかひなく口をしきに」
(ロ) (下に「こと、さま、人、なる」などを伴って、人の死を婉曲に表わす) むなしい。
※宇津保(970‐999頃)あて宮「かの君は、いふかひなくなり給ぬるものを」
② とりあげて言うほどの価値のないさま、問題にするだけの値打のないさまを表わす。
(イ) 子供っぽくて物事のわきまえがない。幼稚である。
※土左(935頃)承平五年一月一五日「女(め)の童のいへる〈略〉いふかひなきもののいへるには、いと似つかはし」
(ロ) ものの風情や人の情を解さない。人柄、心ばえなどにみどころがない。風情がない。趣がない。
蜻蛉(974頃)中「田守(たもり)の物おひたる声、いふかひなく情なげにうちよばひたり」
(ハ) とるにたりない身分・存在である。言いがいない。
※枕(10C終)二八「かかることは、いふかひなき者のきはにやと思へど」
(ニ) ふがいない。いくじがない。みじめである。言いがいない。
伊勢物語(10C前)二三「女、親なくたよりなくなるままに、もろともにいふかひなくてあらんやはとて」
[語誌](1)①②ともに連用形が程度副詞的に使われることもある。
(2)主に和文脈で用いられ、「今昔物語集」では用例大半が本朝世俗部に偏る。院政・鎌倉期には、「平家物語」には②(ハ) の用例が多いなど、用法がやや固定化していき、近世には全般的にその使用が衰えた。
いうかいな‐げ
〘形動〙
いうかいな‐さ
〘名〙

いいがい‐な・い いひがひ‥【言甲斐無】

〘形口〙 いひがひな・し 〘形ク〙 (「いいかいない」「ゆいかいない」とも)
※三巻本一本枕(10C終)一八八「物語こそ悪しう書きなしつればいひかひなく」
謡曲・舟弁慶(1516頃)「今はご兄弟日月のごとくにましますべきを、言ひかひなき者の讒奏(ざんそお)により、おん中違はせ給ふこと」
※苔の衣(1271頃)四「いかなるさきの世のちぎりにて、いひがひなくてさし出けるより、人ににず心憂きありさまにて」
[補注]中世以後用いた語で、平安時代は「いふかひなし」を用いた。平曲、謡曲では「ユイカイナシ」と発音する。
いいがいな‐げ
〘形動〙
いいがいな‐さ
〘名〙

ゆいかい‐な・い ゆひかひ‥【言甲斐無】

〘形口〙 ゆひかひな・し 〘形ク〙 (「いいかいない(言甲斐無)」の変化した語。「ゆいがいない」とも) 言うだけの価値がない。言ってもかいがない。また、ふがいない。意気地がない。
※金刀比羅本平治(1220頃か)中「ゆひかひなくうたれんことこそ口惜けれ」

いいがい‐なし いひがひ‥【言甲斐無】

〘名〙 いくじなし。ひきょうもの。
太平記(14C後)三五日本一の云甲斐(カイ)なしを憑(たのみ)けるこそ口惜けれ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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