日本大百科全書(ニッポニカ) 「金の斧・銀の斧」の意味・わかりやすい解説
金の斧・銀の斧
きんのおのぎんのおの
昔話。正直者が幸福を得るということを主題にした隣の爺(じじ)型の葛藤譚(かっとうたん)の一つ。木こりが仕事中に鉄の斧を淵(ふち)に落とす。水の神に祈ると、淵の中から水の神が黄金の斧を持ってくる。自分のものではないと返す。銀の斧も返し、三度目の鉄の斧を受け取る。神は、正直者だからと、金と銀の斧もくれる。悪い爺がまねをして自分の斧まで失う。古代ギリシアの『イソップ寓話(ぐうわ)集』の「ヘルメスと木こり」の話とまったく同じ構想である。斧を落とした男に同情してヘルメスが斧をとってきてくれるが、金の斧と銀の斧は自分のものではないと断ったので、正直をめでてすべての斧を男に与えたという話で、まねた男の失敗までついている。この話は、明治以後、読み物や教科書で紹介され、広まっている。朝鮮や中国にもあるが、古い記録はない。ヨーロッパでは、リトアニアと、フランスおよびフランス系カナダ人の間に知られているが、あまり古いものではないかもしれない。日本では、鉈(なた)を水中に落とした男が竜宮へ行って黄金の鉈をもらう「黄金(こがね)の鉈」が伝説化して伝わっており、ただ新しいとばかりもいえない。『イソップ寓話集』は室町時代から日本語に訳されているが、1593年(文禄2)のローマ字本にも、江戸初期の国字本にも、この話は含まれていない。
[小島瓔]