日本大百科全書(ニッポニカ) 「イードル・アドハー」の意味・わかりやすい解説
イードル・アドハー
いーどるあどはー
‘Īd al-aā
イスラム教の二大祝祭の一つ。「犠牲祭」を意味し、「大祭」ともいわれる。ズール・ヒッジャ月(イスラム暦第12月)10日に、メッカ近郊のミナーの谷でヒツジやラクダなどの家畜を神に犠牲として捧(ささ)げることである。これは、コーラン22章32~37節に基づく。伝承によれば、アブラハムが神の命に従ってその子(イスラム教ではイシマエル)を犠牲にしようとしたこと(コーラン37章96~112節)に由来する。このミナーの谷での犠牲祭は、元来、イスラム教以前のアラブの宗教儀礼であったものが、新たな解釈のもとにメッカ巡礼(ハッジ)の一連の儀礼の一つとしてイスラム教に受容されたのである。さらに、この日は巡礼者だけでなく、すべてのムスリム(イスラム教徒)がおのおのの地でヒツジなどの犠牲を行い、その肉を貧者に施すように定められており、犠牲祭はイスラム世界全域で行われる。宗教儀礼としての犠牲祭を中心に、祝祭は3日間続けられる。その間、祝祭特有の礼拝(サラート)が行われ、人々は互いに贈り物を交わし、また墓地を訪れたりする。
[小田淑子]