ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウァールス」の意味・わかりやすい解説
ウァールス
Varus, Publius Quinctilius
[没]9
ローマ帝国の司令官。トイトブルクの森の戦いでゲルマン諸部族に敗れて 3軍団を失い,ローマ帝国に大きな衝撃を与えるとともに,ライン川以東への領土拡大を頓挫させた。貴族の名家出身で,ローマ帝国初代皇帝アウグスツスの腹心の部下マルクス・ウィプサニウス・アグリッパの娘と結婚し,前13年,のちの第2代皇帝となるチベリウスのもとで執政官を務める。またアフリカ属州総督(前7?~前6),シリア総督代理などの要職も任された。前4年のヘロデ大王の死後ユダヤ人が反乱を起こすと,反乱軍を鎮圧しユダヤ地方を再びローマの直轄地とした。次いでアウグスツスにより行政官兼軍司令官としてライン以東の辺境に派遣され,ローマによる征服地の支配に努めた。9年9月,遠方の部族が反乱を起こしたとのにせ情報を受けて,鎮圧のため部隊を率いトイトブルクの森に分け入り,待ち伏せていたゲルマン軍に襲撃された。狭い谷間と豪雨によるぬかるみでローマ軍は混乱し,3日間の戦いで全滅,ウァールスも自決した。老いたアウグスツスは,敗北の知らせを受け悲嘆のあまり「ウァールス,ウァールスよ,わが軍を返せ!」と叫んだといわれる。この敗戦のあと,ローマはライン以東の領地をすべて失い,アウグスツスのゲルマン遠征失敗はウァールスの過ちに帰せられた。
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