シャルコー・マリー・トゥース病(読み)シャルコー・マリー・トゥースびょう(英語表記)Charcot-Marie-Tooth's disease

六訂版 家庭医学大全科 の解説

シャルコー・マリー・トゥース病
シャルコー・マリー・トゥースびょう
Charcot-Marie-Tooth disease
(脳・神経・筋の病気)

どんな病気か

 遺伝性ニューロパチーのひとつで、下腿・足に始まる四肢遠位筋(ししえんいきん)萎縮(いしゅく)筋力の低下を主徴とする疾患です。欧米では多い病気ですが、日本での頻度はあまり高くないとされています。

原因は何か

 遺伝子の異常により、末梢神経を構成する髄鞘(ずいしょう)(神経細胞を構成する軸索(じくさく)といわれる部分のまわりを取り囲む部分)に存在する蛋白質などに異常が起こります。単一の病気というより、いくつかの異なる病型に分類されます。最も多いのが小児期から思春期にかけて発症し、末梢神経の髄鞘が損なわれるために末梢神経伝導速度が低下するタイプです。

 原因遺伝子が判明したものもあり、常染色体優性(じょうせんしょくたいゆうせい)遺伝形式をとるもの、常染色体劣性(れっせい)遺伝形式をとるもの、X染色体劣性遺伝形式をとるものなどがあります。

症状の現れ方

 典型例では足は凹足(土踏まずが深く甲が高い)・内反足を呈し、下腿から大腿の下3分の1に限られる筋萎縮のため「シャンパンびんを逆さにした」形をとります。また足首下垂(かすい)するため、歩行時は膝を高く上げて歩くようになります。病気が進行すると手・前腕の筋萎縮や上下肢の遠位部に感覚障害が現れます。一般に呼吸筋や嚥下(えんげ)筋は侵されず、心筋も侵されることはまれです。

 しかし重症例では、脳神経障害による嚥下障害声帯麻痺(せいたいまひ)胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)(首にある筋肉のひとつ)の筋力低下、自律神経障害による不整脈・低血圧、側弯症(そくわんしょう)による呼吸障害(拘束性(こうそくせい)換気障害)を合併することもあります。

検査と診断

 家族歴、特徴的な身体症状、および末梢神経伝導速度の検査により診断可能です。遺伝子検査も行われています。

治療の方法

 現在までのところ病気を治したり、病気の悪化を防ぐような有効な治療法はなく、病態・進行に応じて対症的に治療をします。下垂足に対しては、テーピングをしたり、下肢装具を用いることで歩行障害はかなり軽減されます。

吉井 文均

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

改訂新版 世界大百科事典 の解説

シャルコー=マリー=トゥース病 (シャルコーマリートゥースびょう)
Charcot-Marie-Tooth's disease

1886年フランスのJ.M.シャルコーとマリーP.Marie(1853-1940),ついで同年イギリスのトゥースH.H.Tooth(1856-1926)によって報告された慢性進行性筋萎縮症で,優性遺伝型,伴性劣性遺伝型,および孤発例が存在する。原因として髄鞘構成関連タンパク質の遺伝子異常がいくつか判明している。20歳未満に潜在性に足指,足など下肢遠位部の伸展筋群優位に脱力と萎縮を生じ,やがて近位部や上肢遠位部にも及び,さらに知覚低下も加わる。筋萎縮は大腿の下1/3以下にとくに著しく,茎状足と形容される。歩行時は,下腿伸展筋力低下のため垂れ足を呈する。経過は緩徐進行性で生命予後は良いが,いまだ特別な治療法はなく,やがて臥床生活となる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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