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遺伝子 いでんしgene

翻訳|gene

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

遺伝子
いでんし
gene

遺伝情報単位染色体上の固定位置を占め,蛋白質合成の指令を出すことで効果を達成する。遺伝子はデオキシリボ核酸 DNAによって構成される(→核酸)。ただし例外として一部のウイルスでは,DNAと密接に関連したリボ核酸 RNAと呼ばれる化合物で構成される。DNA分子は互いにからまり合って螺旋階段状になった 2本のヌクレオチドの鎖からなる。はしごの両側の支柱は糖とリン酸からなり,横木は窒素を含んだ塩基同士が結合したペアで形成されている。その塩基には,アデニン(A),グアニン(G),シトシン(C),チミン(T)がある。ある鎖の Aは別の鎖の Tと結合する。同様に,ある鎖の Cは他の鎖の Gと結合する。塩基同士の結合が壊れると,からみ合った 2本の鎖がほどけ,細胞内に存在する遊離のヌクレオチドはばらばらになった鎖のむき出しの塩基に付着する。遊離ヌクレオチドは,塩基の組み合わせの規則に従っておのおのの鎖沿いに 1列に並ぶ。このプロセスの結果,一つのオリジナルの分子から同一の DNA分子が二つ生まれ,ある世代の細胞から次の世代へと遺伝情報が渡される。
DNAのひもに沿った塩基の並び方によって,遺伝コードが決まる。特定の遺伝子の産物が必要になれば,DNA分子のその遺伝子を含んだ部分が分離する。その遺伝子を相補する塩基を備えた RNAのひもが,細胞内の遊離ヌクレオチドから生成される。この RNAの一本鎖はメッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれるもので,それがリボソームと呼ばれる細胞小器官に手渡されて,そこで蛋白質の合成が行なわれる。転移RNA(tRNA)と呼ばれるもう一つのタイプの RNAは,mRNAのヌクレオチドを特定のアミノ酸とマッチングする。三つのヌクレオチドのそれぞれの組み合わせが,一つのアミノ酸を意味するコードになる。ヌクレオチドの並び方に応じてつくられる一連のアミノ酸によって,ポリペプチド鎖がつくられる。あらゆる蛋白質は,一つまたはそれ以上が結合したポリペプチド鎖からつくられる。
実験の結果,遺伝子一つがポリペプチド鎖一つに対応していることが明らかにされている。この仮説は「一遺伝子一ポリペプチド説」として知られる。また,細胞内の遺伝子の多くがほとんどあるいは常に不活性であることがわかった。すなわち,遺伝子のスイッチはいつでもオンまたはオフできると考えられる。遺伝子がバクテリア内で活性化したり不活性化したりする過程は,すでに解明されている。高等生物の遺伝子の調整については,まだ理解にはほど遠い状態である。変異が起こると,遺伝子内の塩基の数または順番が攪乱される。ヌクレオチドは,欠失したり,複製されたり,再編されたり,置き換えられたりする。変異は一般的に,ほとんどあるいはまったく影響を及ぼさないが,その変化が死活的な場合も頻繁にみられる。有益な変異の場合は,個体群のなかで生じる頻度が増し,やがて普通にみられるようになる。(→遺伝遺伝学

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知恵蔵の解説

遺伝子

遺伝形質を決定する因子。メンデルの実験以来、遺伝因子の存在は予想され、それが染色体上にあることも早くから解明されていたが、ワトソンとクリックの二重らせんモデルによって初めてその実体がDNA(ウイルスではRNAもある)の塩基配列であることが立証された。ただし、DNAから実際の形質発現までには、様々な分子レベルでの調整機構が必要である。個別の形質を決定する因子という意味で用いるのが一般的であるが、ゲノムの意味で用いられることもある。

(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)

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デジタル大辞泉の解説

いでん‐し〔ヰデン‐〕【遺伝子】

遺伝形質を規定する因子。本体はふつうDNA(デオキシリボ核酸)で、染色体上のある長さをもつ特定の区画をいう。遺伝因子。ゲンジーン
DNA2」に同じ。「名人と呼ばれた先代の遺伝子を受け継ぐ」

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百科事典マイペディアの解説

遺伝子【いでんし】

遺伝形質を規定する因子。メンデルによる遺伝現象の実証以来,その実体について様々な仮説が出されてきたが,現在ではそれがDNAであることが明らかになっている。DNAの塩基配列は細胞内で生産されるタンパク質の種類を決定し,細胞の形質発現を行う。
→関連項目アンチセンスRNA遺伝遺伝暗号遺伝子診断癌抑制遺伝子人工遺伝子肥満抑制遺伝子マイクロサージャリーメンデルの法則抑制遺伝子連鎖

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栄養・生化学辞典の解説

遺伝子

 遺伝形質の単位で,DNA(ある種のウイルスではRNA)の特定領域を指し,そこに保持された情報がタンパク質へと翻訳され,生物構造形態,機能といった特性を発現する単位.

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世界大百科事典 第2版の解説

いでんし【遺伝子 gene】

遺伝形質を規定する因子。
[メンデル因子から遺伝子へ]
 G.J.メンデル(1865)はエンドウの子葉の色の緑と黄というような対立的な形質を支配する遺伝因子として対立する要素を想定し,両親由来のこのような対立要素,例えばAa,をもつ雑種が配偶子を形成するとき,Aaが分かれて別々の配偶子に入り,これが子どもに伝えられてその形質を規定すると考えた。1900年のメンデルの遺伝法則の再発見以降,多くの生物でこのような対立形質の遺伝様式が盛んに研究されるようになり,それぞれの形質に対応してそれを規定する仮想的な遺伝因子が設定されてきた。

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大辞林 第三版の解説

いでんし【遺伝子】

染色体中に一定の順序で配列されて各々一つずつの遺伝形質を決定し、両親から子孫へ、細胞から細胞へと伝えられる因子。遺伝子の本体は DNA (一部のウイルスでは RNA )であり、そのヌクレオチドの塩基の配列順序の一定の部分によって特定の形質を発現したり、調節したりする情報が伝えられる。遺伝因子。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

遺伝子
いでんし

遺伝形質の決定に働く細胞内の構造単位。遺伝子は核酸分子の一部であり、自己複製により子孫に伝えられ、また転写と翻訳によりタンパク質の構造を決定し、その働きにより遺伝形質を発現する。[石川辰夫]

遺伝子概念の発展

チェコのブルノの町で修道院の司祭をしていたメンデルは1865年にエンドウの交雑実験の結果をまとめて『植物雑種の研究』という論文を発表した。この論文はのちに「メンデルの法則」とよばれるようになった遺伝の原理を示したものであるが、このなかでメンデルは、親から子孫に生殖細胞を通して伝えられ、遺伝形質を決定するものの存在を推定し、これを「要素」とよんだ。メンデルが初めて明らかにした遺伝の要素は、1909年にデンマークの遺伝学者のヨハンセンによってドイツ語でゲンGenと名づけられ、日本語では「遺伝子」とよばれるようになった。その後、主としてショウジョウバエを用いた研究から遺伝子と染色体の関係が明らかにされ、アメリカの遺伝学者T・H・モーガンが1926年にその著書『遺伝子説』で主張したように、遺伝子は染色体上に線状に配列する粒子であると考えられるようになった。1940年代には、遺伝生化学や分子遺伝学研究が発展し、遺伝子は染色体をつくる核酸の一種であり、酵素分子の働きを支配して遺伝形質を決定することが明らかにされた。1960年代には、遺伝子のもつ遺伝暗号がすべて解読され、遺伝情報の発現機構が解明された。さらに1970年代には、遺伝子の人工合成が可能になり、また細胞から取り出した遺伝子を異種の細胞に入れて増殖させ利用する遺伝子工学技術が発展してきた。[石川辰夫]

遺伝子の本体

遺伝子の本体は核酸の一種デオキシリボ核酸(DNA)である。例外的にある種のウイルスではリボ核酸(RNA)が遺伝子として働く。遺伝子がDNAであることは1944年アメリカのエーブリーO. T. Avery、マクレオドC. M. MacLeod、マッカーティーM. McCartyの3人により、肺炎菌を用いた形質転換実験により初めて証明された。彼らは肺炎菌で多糖類の膜をもち、病原性のある野生型細胞からDNAを抽出し、多糖類の膜をもたず、病原性のない突然変異型細胞に加えると、突然変異型が野生型に変化することをみいだし、膜構造と病原性が野生型か突然変異型かを決定している遺伝子はDNAであると結論した。その後、1952年にはアメリカのハーシェイA. D. HersheyとチェイスM. ChaseがバクテリオファージT2の生活史の研究から、T2の増殖に必要な遺伝情報をもつのはDNAであることを証明し、遺伝子がDNAであることが確認された。[石川辰夫]

遺伝子DNAの構造と複製

DNAは多数のデオキシリボヌクレオチドが結合してできた高分子物質である。デオキシリボヌクレオチドはリン酸、デオキシリボース(糖の一種)、プリンまたはピリミジン塩基が結合したものである。DNAをつくる塩基は、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種である。1953年にアメリカの生物学者ワトソンとイギリスの物理学者クリックは協力して遺伝子DNAの分子構造を示す「DNAの二重鎖モデル」を提出した。このモデルは、DNA分子はデオキシリボヌクレオチドが結合してできた2本の長い鎖が螺旋(らせん)状に巻いた構造からなるというものである(図A)。2本の鎖はAとT、GとCが塩基対をつくるように結び付き、二重螺旋構造をとっている。二重螺旋の直径は2.0ナノメートル、螺旋の1回転の距離は3.4ナノメートルで、その間に塩基対が10個並んでいる。このようなDNA鎖をつくる塩基の配列順序は遺伝暗号として働き、遺伝情報を決定するものである。DNA分子の二重鎖の長さは種によって異なるが、遺伝学研究によく用いられる大腸菌のDNA分子の長さは約1.1ミリメートルで、数百万の塩基対からなり、その分子量は約25億である。大腸菌は約3000の遺伝子をもつと考えられ、一つの遺伝子は1000余りの塩基対からなり、平均して分子量が数百万と推定される。
 遺伝子は細胞分裂のとき正しく同じものに複製され、子孫細胞に伝えられる。DNA分子の複製のときには、二重螺旋構造は部分的に巻き戻されて1本鎖となり、それぞれの鎖を鋳型として、DNA合成酵素の働きにより対になる新しい鎖が合成される。このようにDNA分子の複製は自己複製であり、また二重鎖の1本から新しい分子がつくられるので半保存的複製とよばれる。[石川辰夫]

遺伝子と染色体

高等動植物など真核生物の細胞では、DNAは核に含まれ、細胞分裂のときには染色体となり、子孫細胞に分配される。核や染色体をつくっている物質はクロマチンとよばれる。クロマチンはDNA、ヒストンを主とするタンパク質、少量のRNAを含む。DNA分子はヒストン粒と結合し、ヌクレオソームnucleosomeとよばれる単位構造をつくり、折り畳まれて、核や染色体を構成する。細菌類など原核生物の細胞では、細胞分裂のとき真核細胞でみられるような核や染色体をつくらず、DNA分子はクロマチン構造をとることなく、裸の状態で細胞質中に分布している。
 遺伝子は染色体上に一定の順序で線状に配列している。二つの遺伝子が異なる染色体上にあるときには、交雑の結果メンデルの独立の法則に従って分離するが、同じ染色体上にあるときにはこの法則に従わず、行動をともにし、連鎖の現象を示す。1本の染色体上の遺伝子は一つの連鎖群を形成する。交雑の結果、連鎖している遺伝子の組合せが親と異なる組合せに変わることがあり、この現象は遺伝的組換えとよばれる。組換えは減数第1分裂の過程で対合した相同染色体の間で交叉(こうさ)とつなぎ換えがおこり、新しい遺伝子組合せ、すなわち組換え型が生ずる現象である。組換え型の出現頻度をパーセント(%)で示した値を組換え価とよぶ。組換え価を遺伝子間の距離とし、これを線上に目盛ると、遺伝子が染色体上にどのように並んでいるかを示す図ができる。この図は染色体地図、遺伝地図、あるいは連鎖地図とよばれる。
 組換えはDNA分子間の交叉切断と、相同な相手分子へのつなぎ換えによっておこると考えられている。組換え過程では、DNA鎖の切断酵素、修復酵素、連結酵素などが働いている。DNA鎖の特定塩基配列部位を切る酵素は制限酵素とよばれる。同じ制限酵素で切った2種のDNA鎖は切り口の構造が相補的であり、それらを結合してできた分子は組換えDNAとよばれる。遺伝子DNAと細胞質で自己増殖するプラスミドのDNAの間で組換えDNAをつくり、遺伝子のコピーを増やすことができる。これは遺伝子のクローン化とよばれる現象で、遺伝子工学の主要な手段となっている。[石川辰夫]

遺伝子の働き

遺伝子は遺伝形質を決定する。アメリカの遺伝学者のビードルとテータムは1941年にアカパンカビのビタミン合成に関する生化学的突然変異体の研究を行い、「一遺伝子一酵素説」を提唱した。この仮説は、遺伝子は一つの酵素の構造や働きを支配し、遺伝形質を発現するとするものである。その後、1958年にクリックがセントラルドグマとして主張しているように、遺伝子DNAの遺伝情報はまず伝令RNAに転写されて、細胞質に移動する(図B)。細胞質では伝令RNAはリボゾームとよばれる小粒に付着し、運搬RNAなどの働きで翻訳され、遺伝暗号に従ってアミノ酸が結合され、タンパク質のポリペプチド鎖が合成される(図B)。タンパク質は酵素として細胞内の代謝反応を触媒し、また細胞構造をつくり遺伝形質の発現に働く。
 遺伝子のもつ遺伝暗号は、1961年から約5年間に解読された。解読された遺伝暗号は、遺伝子DNAの三つのヌクレオチドがコドンcodonとよばれる暗号の単位となって一つのアミノ酸を指定するというもので(図B)、トリプレット暗号ともいわれる。コドンは64種あり、そのうち61種はタンパク質をつくる20種のアミノ酸のどれかを指定する。3種のコドンはどのアミノ酸も指定せず、遺伝暗号の読みの終了暗号として働く。また、メチオニンの暗号(AUG)は遺伝暗号の読みの開始暗号となる。ウイルスからヒトに至るまで、どの生物も同じ遺伝暗号を用いている。
 遺伝子が働くか働かないかは、調節作用をもつ遺伝子や環境条件などにより調節されている。フランスのジャコブF. JacobとモノーJ. Monodは1961年に大腸菌の乳糖代謝の調節機構の研究から、酵素合成が調節遺伝子によりオペロンとよばれる遺伝子群を単位として調節されるという「オペロン説」を提出した。オペロン説によると、大腸菌の培養中に乳糖がないときには、調節遺伝子からつくられる調節物質(抑制体とよばれるタンパク質)がオペロンの一端(オペレーターとよばれる)に結合し酵素合成を止めているが、乳糖が加えられると抑制体は不活性化され、オペロンから酵素が合成される。真核細胞は多数の遺伝子をもつが、組織に特有の遺伝子のみが働き、ほかは働きを停止している。このような真核細胞における遺伝子作用調節機構は、染色体構造と密接な関係をもつものと考えられている。[石川辰夫]

突然変異

遺伝子は普通、非常に安定した状態で保たれているが、まれに変化することがある。遺伝子の構造が変化し、遺伝情報が変わる現象は突然変異とよばれる。特別な処理をしないで自然の状態でおこるのは自然突然変異である。突然変異が一定時間内にどのくらいの頻度でおこっているかは突然変異率で示される。自然突然変異率は生物種により、また遺伝子ごとに異なるが、微生物では一般に突然変異率が低く、1億分の1くらいであり、高等動植物では10万分の1、あるいはそれ以上の場合が多い。細胞をX線照射したり、アルキル化剤のようなDNAに作用する化学物質で処理すると、突然変異率が上昇する。突然変異はDNA塩基対の置換、欠失、転座、逆位、挿入などにより、遺伝暗号が変化し、指定するアミノ酸が変わることにより、誘発される。[石川辰夫]

遺伝子の微細構造単位

同じ遺伝子の突然変異体を多数分離して相互に交雑すると、低頻度ではあるが組換え型が得られる。各突然変異体の間の組換え価を直線上に目盛ると、遺伝子の微細構造地図が得られる。遺伝子の異なる位置の変化したものはすべて対立遺伝子とよばれる。微細構造地図上の点はDNA分子の1塩基対に対応する。遺伝子内でおこる突然変異の最小単位はミュトンmuton、組換えの最小単位はリコンreconとよばれるが、これらの単位は一つの塩基対に対応するもので、遺伝子はこのような単位が多数集まってできているといえる。三つの塩基が集合すると、遺伝暗号のコドンとなる。遺伝子はコドンの連結したもので、その遺伝暗号によりポリペプチド鎖のアミノ酸配列が決定される。同じ遺伝子の二つの突然変異が、同じ細胞内の異なる染色体上にあるときには、普通は突然変異形質を示すが、ときには助けあって野生型形質を表すことがある。このような突然変異は、シストロンcistronとよばれる遺伝子内の異なる働きの単位に属すとされる。シストロンはタンパク質をつくる一続きのポリペプチド鎖に対応する遺伝単位である。普通、遺伝子は一つのシストロンからなり、1種のポリペプチド鎖の遺伝情報をもつが、まれに二つのシストロンからなり、2種のポリペプチド鎖の遺伝情報をもつものがある。[石川辰夫]

遺伝子記号と種類

遺伝子の名称は遺伝子記号で表される。遺伝子記号は、その遺伝子の決定する形質の特徴を示す英語やラテン語などの省略形と番号や記号からつくられる。たとえば、微生物でアミノ酸の一種であるトリプトファンの要求性を示す遺伝子の記号はtrpである。トリプトファン合成系にはいくつもの酵素反応があり、それぞれの反応を支配する遺伝子には番号やアルファベットをつけtrp1、trp2あるいはtrpA、trpBのようによぶ。ショウジョウバエの白眼の遺伝子はWで、はねの曲がったものはCyである。小文字は劣性、大文字は優性遺伝子である。
 遺伝子の固有名とは別に、遺伝子が細胞のどの部分にあるか、どんな形質を支配するか、どんな働きをするかなどにより、種類分けがなされている。核にある遺伝子は核遺伝子、または染色体遺伝子であり、細胞質にあって細胞質遺伝の原因となるのは細胞質遺伝子である。細胞質のミトコンドリアにあればミトコンドリア遺伝子、あるいはコンドリオーム、色素体にあれば色素体遺伝子、あるいはプラストムとよばれる。一遺伝子一酵素説に従いタンパク質の構造を決定しているのは構造遺伝子であり、構造遺伝子の働きを誘導したり抑制したりしているのが調節遺伝子である。また、生物個体の発生過程で致死作用を示す遺伝子は致死遺伝子といわれる。自然界に普通にみられる正常な遺伝子は野生型遺伝子で、変化すると突然変異型遺伝子になる。一つの形質を支配し、メンデルの法則に従った分離をするのが主働遺伝子であり、量的形質を支配し、メンデル式分離をしないのが微働遺伝子である。また、一つの形質を発現するのに複数の遺伝子が働いていることがあり、それぞれ重複遺伝子、あるいは同義遺伝子とよばれる。これらのほかにも、各種の遺伝現象を表すため多数の遺伝子名が記載されている。[石川辰夫]
『ワトソン著、三浦謹一郎他訳『遺伝子の分子生物学』上下(第3版・1976・化学同人) ▽ホーグランド著、市場泰男訳『遺伝子のはなし』(1981・社会思想社) ▽石川辰夫著『分子遺伝学入門』(岩波新書)』

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世界大百科事典内の遺伝子の言及

【遺伝】より

…一つ一つの性質(形質という)をとっても,子どもが親にそっくり似ることはむしろまれである。しかし,このような場合でも,これから述べるように,子どもは両親からそれぞれの形質を支配する遺伝子をちゃんと受け継いでいる。そこで学問的には,形質と遺伝子の両方について,それらが親(または先祖)から子ども(または子孫)へ伝わることを遺伝といっている。…

【混血】より

…しかし文化の発達とともに環境自体が変化しつつあるから,昔の環境に対する適応が現在の選択に対して必ずしも最も有利であるとはいえない。(2)変異度の増加 二つの人種集団から生じた混血集団における遺伝子度数は,両母集団の中間にあって,母集団の遺伝子度数と混合率によってきまる。また混血集団の変異度は一般に母集団相互間の変異度よりも小さい。…

【人類遺伝学】より

…人類における遺伝現象を研究する医学,生物学の一分野で,ヒトの生命現象とその変異遺伝子染色体との関連のもとに研究する学問である。 ヒトの遺伝子の大部分は細胞の核の染色体に存在し,両親はそれぞれ自己の遺伝子の半分を,精子と卵子(配偶子)の染色体を通して子に伝達する。…

【DNA】より

…デオキシリボ核酸deoxyribonucleic acidの略称。核酸のうち糖成分がD‐デオキシリボースであるもので,遺伝子の本体をなす。教育や体験によらずに親から子へと自動的に伝わる性質を遺伝形質という。…

【突然変異】より

…生物のもつ遺伝物質が量的・質的に変化すること,およびその変化によって生じた状態を指す。細胞核内の遺伝物質の突然変異(核性突然変異)は,変化が起こる遺伝物質の単位に応じて,ゲノム突然変異,染色体突然変異,遺伝子突然変異に分けられる。優性突然変異,劣性突然変異という区別は,突然変異がヘテロ二倍体で表現型の変化をもたらすか否かの違いをいうのであり,また常染色体突然変異,性染色体突然変異という区別は,突然変異が起こった染色体の違いをいうものであるが,いずれも突然変異の分類としては基本的ではない。…

※「遺伝子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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