改訂新版 世界大百科事典 「ジクル」の意味・わかりやすい解説
ジクル
dhikr
イスラムにおいて,神の名を唱え,思念を神に集中する宗教的行為。元来は,〈思い出すこと〉〈思念すること〉〈想起すること〉,〈述べること〉〈口で言い表すこと〉を意味する。さらにその対象に応じて〈非難〉〈弾劾〉となったり,〈賛美〉〈称賛〉となったりする。コーランに特徴的な用法は,〈神は偉大なり〉〈神に栄光あれ!〉のような一定の言葉を口にして〈神の栄光を称えること〉〈御名を唱えて神を賛美し称えること〉である。イスラムにおける人間の崇拝行為とは,神の賛美のことであるならば,ジクルが儀礼の主要な要素となるのは当然である。後にイスラム神秘主義において,それは一種の称名として,そのような言葉を常にあるいは集団で定期的に一定の所作を伴って繰返し口称し,それによって神を常に念じ,さらに精神の集中によって自己と神との二元的対立を超えた忘我の状態,すなわち神秘的合一体験(ファナーfanā’)に至る方法として実践されるようになる。同様なものとしてサマーsamā`があるが,ファナーの追求のために歌や音楽を用いるなど逸脱的傾向が強い。
執筆者:中村 廣治郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報