弾劾(読み)ダンガイ(英語表記)impeachment

翻訳|impeachment

デジタル大辞泉 「弾劾」の意味・読み・例文・類語

だん‐がい【弾劾】

[名](スル)
犯罪や不正をはっきりさせて、責任をとるように求めること。「政府の失政を弾劾する」
法令によって身分保障のある公務員の非行に対し、国会の訴追によって罷免または処罰する手続き。日本では裁判官人事官について弾劾制度があり、その手続きを、裁判官の場合は裁判官弾劾裁判所、人事官の場合は最高裁判所が行う。
[類語]非難指弾論難糾弾風当たり攻撃批判責める

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

共同通信ニュース用語解説 「弾劾」の解説

弾劾

行政府の高官や特別に身分が保障された裁判官などの公務員が法律上の義務違反などを犯したときに、議会が訴追して処罰したり、罷免したりする手続き。日本では裁判官と人事官について制度があり、裁判官の場合は衆参両院議員各7人ずつの合議で弾劾裁判が開かれる。米国では1999年にクリントン大統領(当時)が不倫もみ消し疑惑を巡る偽証などの罪で訴追され、無罪になった。(リオデジャネイロ共同)

更新日:

出典 共同通信社 共同通信ニュース用語解説共同通信ニュース用語解説について 情報

精選版 日本国語大辞典 「弾劾」の意味・読み・例文・類語

だん‐がい【弾劾】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 罪状を調べ、あかるみに出すこと。罪過をあばき訴えること。
    1. [初出の実例]「文書を以て補弼を弾劾するは上議府に限るべし」(出典:明治月刊(1868)〈大阪府編〉五)
    2. [その他の文献]〔北史‐魏収伝〕
  3. 大統領・大臣・裁判官などのように、特に身分保障を必要とする官吏の非行に対し、国会の訴追によって罷免あるいは処罰をする手続き。イギリスで古くから発達した制度で、日本では裁判官や人事官について、弾劾による罷免の制度が採用されている。
    1. [初出の実例]「国主より以下諸政官司を鑒し、之を弾劾するを任とす」(出典:輿地誌略(1826)三)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「弾劾」の意味・わかりやすい解説

弾劾 (だんがい)
impeachment

広く立法部における刑事訴追手続を指すが,また,一定の公職にある者の非行に対しその責任を問い,司法上の刑事罰を科すこととは別に,議会の決議や特別な裁判所の裁判によりその者の地位や公職就任の資格を剝奪することを指す。

 弾劾の制度は,中世のイギリスにおける王会(クリア・レギス)が有した絶対的司法機能に起源を発し,14世紀にその機能を受け継いだ議会で,下院が訴追し上院が裁判するという手続として形成された。一般私人も対象としたが,それは,とくに議会による政府の監督機能を発揮することを目的とし,国王の大臣や高級官吏の非行について刑罰を科しその者を罷免させる手段として用いられた。しかし,その後,議院内閣制が発展するとともにその意義が薄れ,1806年のメルビル卿事件を最後として,イギリスの弾劾制度は衰退した。ところが,それは,アメリカ植民地に引き継がれ,いくつかの州の憲法および1787年のアメリカ合衆国憲法に採用された。ただし,アメリカにおいては,弾劾事件の判決が合衆国の公務に就任,在職する資格を剝奪することのみに及び,弾劾によって有罪の判決を受けた者は,別に,法律に従って起訴,審理,判決,処罰を受けることを免れないとするもので(合衆国憲法1条3節7項),イギリスの弾劾制度がもっていた刑事手続的性格を除いている。下院が訴追し上院が裁判を行う方式は,イギリスの伝統を引き継ぐものであるが,この制度の下に,大統領,上院議員,陸軍長官,裁判官が訴追を受け,罷免の判決が下された例もある。近年では,ニクソン大統領が1972年の大統領選挙の際の不正行為に関連して弾劾の訴追を受け,上院で裁判にかけられ,辞任した例が有名である(ウォーターゲート事件)。他の諸国の憲法にも,弾劾制度が規定されているが,それらは,弾劾裁判の効果として刑罰を伴うイギリス型と罷免にとどまるアメリカ型とに大別することができる。しかし,弾劾制度の内容・手続は諸国により異なる。

 まず,弾劾の対象となるのが行政部の高官や強い身分保障を受けている裁判官であることは,諸国の制度の共通した点であるが,とくに国務大臣を対象とする大臣弾劾制をとるもの,裁判官を対象とした裁判官弾劾制をとるもの,その両者をとるものなど多様である。アメリカの制度は,大統領をはじめ文官に及ぶとして対象者を広く設定している例であり,日本のように裁判官のみを対象とする例もある。弾劾の権限を行使するのは,国民の代表機関である議会とされる例が多い。また,議会や議会の一院(下院,衆議院)が訴追し,議会の他の院(上院,元老院)または特別な機関が審理・裁判する。しかし,通常の裁判所が裁判するところもある。いずれの方式をとるにしても,弾劾裁判は,司法裁判とは異なり,通常,広い裁量の余地が認められ,証拠法則が厳格に守られることはなく,訴追を受けて裁判にかけるか否か,罷免の判決を下すか否かについては種々の要因が働くこととなっている。また,罷免を求める訴追事由は,一般的には,刑事上の処罰の対象となるような非行だけでなく,公職の地位にふさわしくない行為をしたことを含むとされる。たとえば,アメリカでは,官吏が国家の権威,尊厳,安全を危うくするような行為をし,国民の信頼に背いた場合が該当するとされている。しかし,ある裁判官の判決傾向や言動をとらえて,弾劾の調査をする場合もあり,弾劾制度の公正な運用は,最終的には,弾劾権者の良識に負うところが大である。

 日本の弾劾制度は,明治憲法制定の過程で,大臣や官吏の弾劾について検討された形跡があるが,制度として実現することはなく,日本国憲法において初めて設けられた。それは,裁判官に対する〈公の弾劾〉であり,国会の各議院の一定数で組織される弾劾裁判所という特別な裁判所の裁判により裁判官を罷免させる制度である(日本国憲法64,78条)。弾劾を国会の権能とし,弾劾裁判所が国会に設けられるとしているが,その活動は,立法府における議院のそれではない。また,憲法は,弾劾の対象を裁判官に限り,弾劾事由や訴追権の行使者などについて法律で定めるところにゆだねているなど,諸国の制度と比較して独特なものである。このような独特な制度を設けた理由として,議院内閣制の下では,議会による内閣総理大臣の不信任決議,内閣総理大臣による他の国務大臣の罷免,各議院における議員の除名などにより弾劾に代わる機能を発揮できるはずであり弾劾の対象を裁判官に限るとしてよいこと,弾劾というわずらわしく時間のかかる手続により国会の本来の機能が妨げられないように特別な機関を設けるのが適当であることなどが考慮されたためだと推測される。弾劾制度の詳細は,裁判官弾劾法,国会法,裁判官弾劾裁判規則において定められている。
裁判官弾劾法
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

普及版 字通 「弾劾」の読み・字形・画数・意味

【弾劾】だんがい

官吏の不正を糾弾する。〔晋書、阮孚伝〕髮(ほうはつ)飮酒、王務を以て心に嬰(か)けず。~嘗(かつ)て金貂(きんてう)を以て酒に換へ、復(ま)た司に彈せらる。之れを宥(ゆる)す。

字通「弾」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「弾劾」の意味・わかりやすい解説

弾劾
だんがい
impeachment

行政部の高官や特別の身分保障を受ける裁判官などの公務員が重大な法律上の義務違反や反社会的な行為を犯したとき,議会がこれを訴追し,処罰する制度。イギリスで生れ,各国議会が採用している。コモン・ローにおいては立法府が公務員を罷免するための刑事手続として設けられている。イギリスやアメリカでは,下院が検察官,上院が裁判官の役割をになう。イギリスでは弾劾で有罪となった場合には一般の裁判と同様の刑事罰を被告に対して課すことができるが,アメリカでは解職や資格剥奪などの行政罰に限られる。日本国憲法においては裁判官に対してのみこの制度を採用しており,各議院において選出された同数の訴追委員で構成される弾劾裁判所が罷免の可否について審理を行う。なお国家公務員については,人事官についてのみ弾劾の制度を設けている。 (→公の弾劾 )

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の弾劾の言及

【議院内閣制】より

…18世紀初頭になると,大臣副署制の運用によって,君主権力の実質が大臣たちの手に移行しはじめ(1714年にハノーバー王朝の初代として王位についたジョージ1世が英語を解さなかったことが,大きな転機となった),それとともに,大臣たちは君主により任命されると同時に,議会とりわけ下院の信任を得ていることが必要とされるようになった(1742年,R.ウォルポール首相は,国王の信任を得ていたのに,下院の支持を失って辞職した)。もともと,大臣の対議会責任は,法によって定められた弾劾事由にもとづいて個々の大臣の責任を問うために,下院が上院に対して弾劾impeachmentの手続をとる,という形で追及された。そのような個々の大臣についての弾劾手続から出発して,しだいに,弾劾を避けるために議会の支持を失った大臣はみずから辞職するようになった。…

※「弾劾」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

世界の電気自動車市場

米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...

世界の電気自動車市場の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android