改訂新版 世界大百科事典 「ディゲニスアクリタス」の意味・わかりやすい解説
ディゲニス・アクリタス
Digenis Akritas
中世ギリシア英雄叙事詩。ただし本来の叙事詩にあたるのはその第1部で,アラブのアミールを主人公とし,彼によるビザンティン属州駐屯軍司令官の娘の略奪,彼女の兄弟たちの奪回行の成功,アミールのビザンティン領土での受洗と婚礼,そしてアミール一族あげてのビザンティン領への最終的移住の物語から成る。10世紀に編纂され,国境地帯での当時のビザンティン・アラブの対立状態が背景をなしている。これに反し第2部は,アラブのアミールとギリシア人軍司令官の娘との間に生まれたディゲニス(イスラム教徒,キリスト教徒の両家族の結合から生まれたことを意味する)・アクリタス(国境守備隊長の意)を主人公とし,恋の冒険談,武勇伝,ユーフラテス河畔でのビザンティン皇帝との会見,御殿の建築,英雄の死などから成り,古代末期のロマンの伝統に立っている。第2部の最初の編纂は11~12世紀,また今日に伝わる内容は,中世ギリシア文学史上で古典主義的ロマンが復活した12世紀以後の編纂と考えられる。
執筆者:渡辺 金一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報