日本大百科全書(ニッポニカ) 「トロバトーレ」の意味・わかりやすい解説
トロバトーレ
とろばとーれ
Il Trovatore
イタリアの作曲家ベルディのオペラ。4幕。1853年ローマ初演。サルバトーレ・カッマラーノがイタリア語台本を書き進めている途上で他界したため、レオーネ・エマヌエーレ・バルダーレが完成。物語は15世紀初頭の北スペインを舞台に展開するもので、先代のルーナ伯が1人のロマ(かつてはジプシーとよばれた)の女を魔女として火刑に処したため、その娘アズチェーナは復讐(ふくしゅう)をもくろんで彼の二人息子の弟をさらうが、誤って自分の子供を殺してしまった、という過去がある。その後、アズチェーナの息子として育てられた弟マンリーコはトロバトーレ(吟遊詩人)となり、兄ルーナ伯と実の兄弟とは知らず、伯爵令嬢レオノーラをめぐって恋敵となる。そして政争に巻き込まれて互いに争い、ついに兄はレオノーラを自殺に追い込み、弟を処刑してしまうという運命悲劇。台本はけっしてよいできとはいえないが、各登場人物や各状況に応じて描き分けた創意に富む旋律によって高い評価を受け、上演される機会も多い。時代的には『リゴレット』と『椿姫(つばきひめ)』の中間に位置するオペラで、この3作によりベルディの名は世界に広まった。日本初演は1963年(昭和38)NHK招聘(しょうへい)のイタリア歌劇団。
[三宅幸夫]