知恵蔵 「トーマス・クック」の解説
トーマス・クック
トーマス・クック・グループ側は業績悪化の理由として、英国のEU離脱問題の影響で、英国人が海外旅行を控える傾向が続いたことなどを挙げたが、インターネットの普及により、個人がネットを利用して、代理店に頼らずに旅行を手配するようになったことなども背景にあるとみられている。負債が膨らんだ同社は、主要株主でもある中国の投資会社、復星集団(フォースングループ)などから資金調達を進めたが、再建できなかった。
トーマス・クック・グループは1841年に創業された。熱心な禁酒論者だったトーマス・クックが、禁酒会議に向かう人たちの鉄道旅行を手配したのが始まりだという。鉄道や汽船などの移動手段が整備されていく中、クックは乗り物やホテルの手配を請け負う割安なパッケージ旅行や団体旅行を打ち出し、旅行を市民の娯楽の一つとして定着させた。73年に欧州の鉄道時刻表を創刊、翌74年にはトラベラーズチェック(旅行者用小切手)の取り扱いを開始するなど旅行をサポートする体制も整え、近代ツーリズムを確立していった。ホテルやリゾート、航空会社の経営にも事業を拡大し、2019年9月の破産申請前には、グループ全体の従業員数は約2万1000人に上った。
今回の破たんによって、トーマス・クック・グループが手配した航空券やツアーがキャンセルになり、ツアーの利用者約60万人が国内外で足止めされるなどの影響を受けた。そのうち約15万人の英国人旅行者について、英国政府は、チャーター機を派遣して帰国支援を進めた。その費用は1億ポンド(約133億円)に上る。また、ツアーのキャンセルが大量に発生し、旅行先のホテルなどにも影響が出ている。
19年10月、英国の旅行代理店、ヘイズ・トラベルは、トーマス・クック・グループの破産管財人と、破たんした500以上の店舗を買い取ることで合意した。元従業員の再雇用も進め、店舗の再開を目指す。
(南 文枝 ライター/2019年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報