日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ナスレッティン・ホジャ物語
なすれってぃんほじゃものがたり
Nasrettin Hoca Hikâyeleri
トルコの滑稽(こっけい)、頓智(とんち)話。トルコ、アゼルバイジャン、カフカス、クリミア、トルキスタン、バルカン諸国などで広く親しまれている。
主人公、ナスレッティン(ナスレッディーンともいう)・ホジャが実在の人物か否かは明らかではないが、トルコでは13世紀のアナトリアに生きていた人と考えられており、アクシェヒールにその廟(びょう)が設けられている。物語は数百の小話からなっており、ホジャの奇行、教訓、知恵話のなかに、イスラム教徒としてのトルコ民衆の道徳観、人生観、為政者への痛烈な批判が込められており、同じく庶民の間で親しまれた「カラギョズ」(影絵芝居)とともにトルコ民衆文芸を代表する。ヨーロッパの学者のなかにはこの物語の起源をアラブ・イスラム世界に知られた『ジュハ物語』に求める者もあるが確実ではない。
[永田雄三]
『護雅夫訳『ナスレッディン・ホジャ物語』(平凡社・東洋文庫)』