改訂新版 世界大百科事典 「バラド」の意味・わかりやすい解説
バラド
balad
アラビア語で元来は定住地を意味するが,一般には〈都市〉や〈むら〉,あるいは両者を含む〈地方〉の意味に用いられる。このようなバラドの多義性は,イスラム社会の都市とむらが必ずしも厳密には区別されてこなかったことに由来する。〈聖なるバラド〉といえばメッカのことであるし,エジプトやイラクのむらもまたバラドと呼ばれた。もっとも,むらとしてのバラドは,自然村(カルヤqarya)に対して,行政村の意味に用いられることが多く,この場合には,中央政府により租税徴収の単位として把握された。またバラドの複数形を用いてビラード・アルイスラームbilād al-islāmといえば,ムスリムの主権が及ぶ範囲の地域をさすが,これは十字軍やモンゴル軍などの外国勢力に対して一地方を自らの〈国〉(バラド)として意識することに通じるものであったといえる。例えばエジプトでは,外国人(ハワージャーkhawājā)に対して,エジプト方言を話し,男気に富むカイロ市民をイブン・アルバラド(町の子)と呼ぶのが古くからのならわしであった。
執筆者:佐藤 次高
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報