改訂新版 世界大百科事典 「ボーラーン峠」の意味・わかりやすい解説
ボーラーン[峠]
Bolān Pass
パキスタン西部,バルーチスターン州中央部のブラーフイ山脈中の鞍部にある峠。全長約90kmにわたって起伏する回廊状隘路が続く。最高所の標高は約1800m。道路のほか,鉄道が州都クエッタを経て,アフガニスタン国境部のチャマン,イランのザーヘダーンまで通じている。内陸アジアとインダス平原とを結ぶ交通路上の要衝として,歴史上重要な役割を果たしてきた。先史時代にはインダス文明が発生の当初からこの峠を経由してイラン高原の諸農耕文化と結びついていたとされる。しかし同峠の北および西には砂漠が広がり,そこからは強力な政治勢力が出現することはほとんどなかった。インド亜大陸に征服王朝をつくりあげた諸勢力は,ほとんどアフガニスタン東部あるいは中央アジアを根拠地としていたので,彼らはインドへの短捷路として,より北方のハイバル峠をとった。このためボーラーン峠は有名な征服者ではなく,むしろ無名の商人,遊牧民たちによってより多く利用されたといえる。
執筆者:応地 利明
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