改訂新版 世界大百科事典 「マーナサ湖」の意味・わかりやすい解説
マーナサ[湖]
Mānasa
インド神話上の神聖な湖で,ヒマラヤ山脈の最北端にあるシバ神の聖地カイラーサ山の南麓に位置する。インド最古の文献《リグ・ベーダ》以来,天女ウルバシーと人間の王プルーラバスとの恋愛物語として語り伝えられ,カーリダーサの《ビクラマ・ウルバシーヤ》など文芸作品にも取り上げられている《ウルバシー物語》の重要な舞台となった。プルーラバス王が結婚の際の約束をたがえて,ウルバシーに裸身を見せたため,彼女は怒って姿を消し,白鳥の姿となってマーナサ湖にいた。尋ねあてた王が元の姿に戻って帰ってくれと懇願したが,1年後に再会することを約した。やがて王も祭事を行って半神族ガンダルバの仲間に入り,天界において彼女と再婚した。マーナサ湖はこの神話において重要な場面となっているばかりでなく,仏教神話にいう四大河の発源するアナバタプタ(阿耨達池(あのくだつち))もこの湖を指すとされる。現在の中華人民共和国チベット自治区南西部に位置するマーナサローワル湖(マパム・ツォともいう。面積500km2,湖面の標高4602m)がこれにあたるといわれる。
執筆者:田中 於莵弥
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