カーリダーサ(読み)かーりだーさ(英語表記)Kālidāsa

デジタル大辞泉 「カーリダーサ」の意味・読み・例文・類語

カーリダーサ(Kālidāsa)

4世紀後半から5世紀初めごろのインドの詩人・劇作家サンスクリット文学の代表者叙事詩「ラグバンシャ」、叙情詩メーガドゥータ」、戯曲「シャクンタラー」など。

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精選版 日本国語大辞典 「カーリダーサ」の意味・読み・例文・類語

カーリダーサ

  1. ( Kālidāsa ) 古代インドの詩人、劇作家。五世紀頃の人。流麗、典雅筆致で書かれた作品サンスクリット文学最高水準を示す。戯曲「シャクンタラー」、叙事詩「ラグ‐バンシャ」、叙情詩「メーガ‐ドゥータ」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カーリダーサ」の意味・わかりやすい解説

カーリダーサ
かーりだーさ
Kālidāsa

4~5世紀に活躍した古代インドの詩人、劇作家。伝承によれば、ウッジャイニーのビクラマーディティヤ王の宮廷詩人として、その九宝といわれた9人の詩人の1人。この王はグプタ朝のチャンドラグプタ2世(在位385~413)をさすといわれるから、このころの人と思われる。グプタ朝最盛時の文運を反映し、健全な思想、繊細な感覚、流麗な筆致、巧妙な修辞的技巧によって傑作を残した。古典サンスクリット文学は、彼の出現で完成の域に達し、その後数百年にわたり多くの継承者が出て黄金時代を現出した。インド文学史上最大の巨匠として、「詩人の随一」あるいは「大詩人」の名を冠せられ、『シャクンタラー』が欧州に紹介されると、欧州文壇はこぞって絶賛の辞を惜しまず、「インドのシェークスピア」とよんだ。

 彼の作品と称せられるものは多いが、真作と認められるのは、戯曲に『シャクンタラー』、天女ウルバシープルーラバス王の数奇な恋愛物語を主題とする『ビクラモールバシーヤ』、アグニミトラ王とマーラビカー姫の結婚を題材とした『マーラビカーグニミトラ』の3編。叙事詩に、シバ神ヒマラヤ山神の娘ウマーの恋愛やヒマラヤの情景を美しく描写した『クマーラサンババ』(軍神クマーラの誕生)と、ラーマ王の事績を主題とし、サンスクリット修辞学の規定するマハー・カービヤ体のもっとも優れた作品とされる『ラグバンシャ』(ラグの王統)の2編がある。叙情詩には、雲に託して遠く離れた妻に愛の便りを送る『メーガドゥータ』(雲の使者)と、1年の六つの季節を精細な自然の描写に繊細な恋愛の情緒を織り混ぜ、種々の韻律を用いて平易に述べている『リトゥサンハーラ』(季節のめぐり)があり、いずれもサンスクリット文学の最高水準を示す。

[田中於莵弥]

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改訂新版 世界大百科事典 「カーリダーサ」の意味・わかりやすい解説

カーリダーサ
Kālidāsa

インド古典文学史上最高の詩人,劇作家。生没年不詳。その生涯は伝説につつまれているが,グプタ王朝の最盛期,4,5世紀ころに,アバンティ国のウッジャインで文学的活動をしたと推定されている。最も有名な作品は,7幕よりなる戯曲《シャクンタラー》である。この作品は古くから西欧にも紹介され,1789年にウィリアム・ジョーンズが英訳して以来,ロマン主義の文人たちに愛好された。ゲーテがその独訳を読んで賛辞を述べたことはよく知られている。彼は《ファウスト》の序曲の構想を《シャクンタラー》の序幕から得たといわれる。

 カーリダーサの戯曲作品としては,そのほかに,天女ウルバシーとプルーラバスとの恋愛を主題とする,5幕よりなる《ビクラマ・ウルバシーヤ》と,アグニミトラ王とビダルバ国の王女マーラビカーとの恋愛を主題とする,5幕よりなる《マーラビカーとアグニミトラ》とがあり,それぞれ傑作とされている。彼はまた,《ラーマーヤナ》に題材をとった19章よりなる叙事詩《ラグの系譜》,シバ神とパールバティーの恋愛と結婚を主題とする8章よりなる叙事詩《クマーラの誕生》,ゲーテに絶賛された珠玉の抒情詩《メーガドゥータ(雲の使者)》を著した。《メーガドゥータ》は後代に使者(サンデーシャ)文学の流行をもたらした。そのほかに,一応カーリダーサの真作とみなされている作品に,6季節のうつりかわりを描写する抒情詩集《リトゥ・サンハーラ》がある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カーリダーサ」の意味・わかりやすい解説

カーリダーサ
Kālidāsa

インドの詩人,劇作家。4~5世紀頃在世。ウッジャインのビクラマーディティヤ王の宮廷詩人の一人としてあげられているが,この王はグプタ朝のチャンドラグプタ2世と推定されているから,彼もその時代の人と思われる。古今を通じインド文学史上最大の作家といわれ,代表的傑作『シャクンタラー』,および『ビクラモールバシーヤ (勇気によって得られたウルバシー) 』 Vikraṃorvaśīya,『マーラビカーグニミトラ (マーラビカーとアグニミトラ) 』 Mālavikāgniṃitraの3戯曲のほか,抒情詩に『メーガドゥータ』『リトゥサンハーラ』,叙事詩に『クマーラ・サンババ (軍神クマーラの誕生) 』 Kumārasaṃbhava,『ラグ・バンシャ』の諸作を残し,いずれも各ジャンルにおける最高水準を示している。彼の出現により古典サンスクリット文学は黄金時代を現出した。

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百科事典マイペディア 「カーリダーサ」の意味・わかりやすい解説

カーリダーサ

4,5世紀ころのインドのサンスクリット詩人,劇作家。生没年不詳。代表作に戯曲《シャクンタラー》や《メーガ・ドゥータ(雲の使者)》等があり,インド古典文学最高の詩人とされる。
→関連項目グプタ朝バーサババブーティ

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「カーリダーサ」の解説

カーリダーサ
Kālidāsa

生没年不詳

インド古典文学の詩人,戯曲家。4~5世紀頃,グプタ朝の首都ウッジャインの宮廷で活躍した。彼の戯曲『シャクンタラー』は有名で,ジョーンズの英訳は独訳されゲーテに感銘を与えた。戯曲はほかに二つある。『ラーマーヤナ』を主題とした『ラグの系譜』,シヴァとパールヴァティーの愛と結婚を描いた『クマーラの誕生』の二つの叙事詩,抒情詩『雲の使者』『季節のめぐり』を残す。平明,簡潔な文体のなかに美しさを示し,古典文学最高の詩人と称えられる。

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旺文社世界史事典 三訂版 「カーリダーサ」の解説

カーリダーサ
Kālidāsa

4世紀後半〜5世紀前半
古典サンスクリット文学爛熟期のインドの詩人
グプタ朝の最盛期チャンドラグプタ2世の宮廷詩人といわれ,優雅な文体で伝説・恋愛・冒険の詩や劇を書いた。代表作『シャクンタラー』は王に恋した天女の娘の運命を物語り,カルカッタ滞在の裁判官ウィリアム=ジョーンズによって18世紀末英訳され,ゲーテらに影響を与えた。ほかに,郷土に残してきた妻への思いを伝える叙情詩『メーガドゥータ』等が有名。

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世界大百科事典(旧版)内のカーリダーサの言及

【インド演劇】より

…バーサに次ぐ劇作家はシュードラカ(4世紀)で,彼の作に帰せられる《ムリッチャカティカー(土の小車)》は,社会劇として古典劇中特異の地位を占めている。詩聖カーリダーサ(4~5世紀)は傑作《シャクンタラー》劇によってインド劇の真価を世界に知らしめたが,彼はほかに2編の戯曲を残している。中インド曲女城(カナウジ)の戒日王として知られたハルシャ・バルダナ(在位606‐647)は,仏教劇《ナーガーナンダNāgānanda(竜王の喜び)》ほか2編の戯曲を残した。…

【インド文学】より

…その中の《チャールダッタ》は4幕までの未完成作品であるが,この劇を発展補足させた10幕の戯曲《ムリッチャカティカーMṛcchakaṭikā(土の小車)》はシュードラカの作に帰せられ,初期の古典劇中特異な社会劇として高く評価されている。グプタ朝(4~6世紀)は文運の興隆した時代であるが,その最盛期に詩聖カーリダーサ(4~5世紀)が現れ,古典サンスクリット文学は黄金時代を現出した。カーリダーサは抒情詩,叙事詩,戯曲に縦横の才筆をふるい,傑作《シャクンタラー》劇によってつとに西欧文壇にその名を知られ,インド随一の文豪と呼ばれている。…

【シャクンタラー】より

…インドの詩聖カーリダーサ(4世紀後半~5世紀前半ころ)の最高傑作とされる,7幕よりなる戯曲作品。《アビジュニャーナ・シャークンタラAbhijñānaśākuntala》とも呼ばれる。…

※「カーリダーサ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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