日本大百科全書(ニッポニカ) 「カーリダーサ」の意味・わかりやすい解説
カーリダーサ
かーりだーさ
Kālidāsa
4~5世紀に活躍した古代インドの詩人、劇作家。伝承によれば、ウッジャイニーのビクラマーディティヤ王の宮廷詩人として、その九宝といわれた9人の詩人の1人。この王はグプタ朝のチャンドラグプタ2世(在位385~413)をさすといわれるから、このころの人と思われる。グプタ朝最盛時の文運を反映し、健全な思想、繊細な感覚、流麗な筆致、巧妙な修辞的技巧によって傑作を残した。古典サンスクリット文学は、彼の出現で完成の域に達し、その後数百年にわたり多くの継承者が出て黄金時代を現出した。インド文学史上最大の巨匠として、「詩人の随一」あるいは「大詩人」の名を冠せられ、『シャクンタラー』が欧州に紹介されると、欧州文壇はこぞって絶賛の辞を惜しまず、「インドのシェークスピア」とよんだ。
彼の作品と称せられるものは多いが、真作と認められるのは、戯曲に『シャクンタラー』、天女ウルバシーとプルーラバス王の数奇な恋愛物語を主題とする『ビクラモールバシーヤ』、アグニミトラ王とマーラビカー姫の結婚を題材とした『マーラビカーグニミトラ』の3編。叙事詩に、シバ神とヒマラヤ山神の娘ウマーの恋愛やヒマラヤの情景を美しく描写した『クマーラサンババ』(軍神クマーラの誕生)と、ラーマ王の事績を主題とし、サンスクリット修辞学の規定するマハー・カービヤ体のもっとも優れた作品とされる『ラグバンシャ』(ラグの王統)の2編がある。叙情詩には、雲に託して遠く離れた妻に愛の便りを送る『メーガドゥータ』(雲の使者)と、1年の六つの季節を精細な自然の描写に繊細な恋愛の情緒を織り混ぜ、種々の韻律を用いて平易に述べている『リトゥサンハーラ』(季節のめぐり)があり、いずれもサンスクリット文学の最高水準を示す。
[田中於莵弥]