ムンプス難聴(読み)ムンプスナンチョウ(その他表記)Mumps deafness

デジタル大辞泉 「ムンプス難聴」の意味・読み・例文・類語

ムンプス‐なんちょう〔‐ナンチヤウ〕【ムンプス難聴】

おたふくかぜ流行性耳下腺炎)の合併症で、原因ウイルスであるムンプスウイルス内耳に感染することで生じる難聴。急性発症する難治性の高度難聴で、片耳に起こることが多い。15歳以下、特に5~9歳に多く発症するとされる。

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知恵蔵 「ムンプス難聴」の解説

ムンプス難聴

おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)の合併症で起こる難聴のこと。おたふくかぜは、ムンプスウイルスの感染により発症する。ムンプスウイルスは、唾液(だえき)腺、膵臓(すいぞう)、睾丸(こうがん)などの腺組織や、髄膜、内耳などの中枢神経系に感染しやすい。ムンプスウイルスが、聞こえや平衡感覚をつかさどる内耳に感染すると、ムンプス難聴を生じる。難聴に加え、耳鳴り、めまいを伴うこともある。
ムンプス難聴は、片側の耳が急に聞こえなくなることが多いが、両側の耳が共に聴覚損失することもある。聴覚損失は重症のことが多い。発症年齢は15歳以下が多く、中でも5~9歳に多いと報告されている。ただし、片側の耳だけに難聴が発症した場合、症状を十分に訴えられない幼児では、見落とされている可能性もある。
おたふくかぜの合併症ではあるが、おたふくかぜの特徴である唾液腺の腫れなしに難聴が発症することもあるため、ムンプス難聴の診断のためには詳しい検査が必要になることもある。
難聴については、治療による改善は期待できない。生活に支障を生じる場合は、補聴器人工内耳を付ける必要がある。一方、めまいは、数カ月以内に軽快することが多い。耳鳴りは、人によって異なり、軽快する場合もあれば、生涯続く場合もある。
かつてはムンプス難聴の発生頻度は、おたふくかぜ罹患(りかん)患者の1.5万人に1人と非常に低いとされていた。しかし、日本耳鼻咽喉科学会が全国の耳鼻咽喉科医療機関に対して行った、2015-16年にかけて発症したムンプス難聴の大規模全国調査によると、2年間で少なくとも348人が難聴となり、300人近くに後遺症が残っていることが明らかになっている。
この調査結果によると、詳細が明らかな336人の中で、初診時に片側の難聴と診断されたのは、317人、両側の難聴は15人。そのうち約80%に当たる274人は高度以上の難聴が後遺症として残っていることが判明した。最終的に両側難聴となった16人中12人は、日常生活に支障があるため、補聴器または人工内耳の装用が必要だった。
片側の耳が聞こえていたとしても、両耳で聞こえないと、音がどの方向から聞こえているか分からなかったり、声をかけられていても気付かなかったりすることがある。グループでの話し合いや会議での会話が聞き取れないなど、日常生活に支障を来すこともある。
今回の調査は、小児科を含まない耳鼻咽喉科単独の調査であるにもかかわらず、2年間で300人以上のムンプス難聴発症が報告されている。実際にはもっと多くの患者がいると推測される。
日本は先進国で唯一おたふくかぜワクチン定期接種となっていない。そのため、予防接種率は30~40%と低い。これが、おたふくかぜが流行する原因となっている。日本小児科学会など17の学術団体からなる予防接種推進専門協議会は、2018年5月、おたふくかぜワクチンの定期接種化に関する要望を厚生労働省あてに提出した。
ムンプス難聴は、おたふくかぜに罹ることによって起こる。おたふくかぜは、ワクチンの接種で予防することができる疾患である。ワクチンの重要性を、より多くの人に広める必要がある。

( 星野美穂 フリーライター/2018年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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