おたふくかぜ(読み)おたふくかぜ(英語表記)Mumps

共同通信ニュース用語解説 「おたふくかぜ」の解説

おたふくかぜ

感染力が強いムンプスウイルスが原因の感染症耳下腺の腫れや痛みのほか、発熱などの症状があり、患者は子どもに多い。治療は対症療法が中心となる。通常は1~2週間ほどで症状が軽くなる。感染しても症状が出ないことがある一方、無菌性髄膜炎や難聴などの合併症を起こすことがある。大人でも合併症が起こる。最近は2010年や16年に比較的大きな流行があった。飛沫ひまつや接触で感染し、ワクチンが有効な予防手段とされる。

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EBM 正しい治療がわかる本 「おたふくかぜ」の解説

おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 軽い発熱(ないときもある)や体のだるさがおこり、耳の下にある唾液腺(だえきせん)のひとつである耳下腺(じかせん)が腫(は)れたり、赤くなったりします。耳下腺は両方同時に腫れる場合と、先に片方だけ腫れたあと、もう一方が腫れる場合があり、押さえると痛みます。顎(あご)の下の唾液腺である顎下腺(がっかせん)が腫れることもあります。話をしたり食べ物をかんだり、酸(す)っぱい物を食べたりしたときに、耳下腺の痛みが増します。腫れは1~3日で最大になり、3~7日でおさまります。
 子どもの場合、ほとんどは重症に至らず治ります。しかし、ときに脳や神経に炎症をおこしたり(髄膜炎(ずいまくえん)や脳炎)、耳が聞こえなくなったり(難聴(なんちょう))、膵臓(すいぞう)に炎症(膵炎(すいえん))をおこしたりすることがあります。思春期以降の男性が感染した場合、約4割が精巣炎(せいそうえん)を合併します。この精巣炎はまれに不妊の原因となります。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 ムンプスウイルスによっておこる病気です。感染者の鼻やのどからの分泌液によって感染するか、直接触れることで感染します。
 感染してから、14~18日間で症状がでます。ウイルスが気道内で増えたあと、耳下腺に感染して、全身に炎症をおこします。発熱や頭痛がおこり、食欲がなくなってから2日程度で、耳の下にある耳下腺が腫れてきます。
 感染しても症状がでない(不顕性感染(ふけんせんかんせん))人が、30~40パーセントいます。しかし、不顕性感染の患者さんも感染源となるため、予防接種をしない限り流行を抑えることはできません。耳下腺、顎下腺の腫脹(しゅちょう)が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで、保育所や幼稚園、学校は出席停止となります。(1)


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]ワクチン接種によって予防する
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 1歳から1歳3カ月の間に1回目、5歳から6歳時の2回目の2回接種で、発症を予防し、合併症の発症率を低下させます。2回接種のほうが、流行時の感染のリスクをより軽減させることができます。(2)~(5)
 ワクチンを接種したときに、脳や神経の炎症(無菌性髄膜炎、急性脳炎)がおこる確率は、おたふくかぜにかかったときに比べて著しく低いため、ワクチンの2回接種が強く勧められています。ワクチン接種後に、かぜのような症状や、中耳炎、下痢(げり)の副作用がでることがあります。
 日本では、1歳から1歳3カ月の間に1回の接種が任意接種として推奨されており、5歳から6歳の間に2回目の接種をすることが、日本小児科学会から強く推奨されています。日本以外の先進国ではおたふくかぜの予防接種が定期接種化されており、根絶に成功した国も報告されています。(6)

[治療とケア]痛みが激しい場合はあたためる、もしくは冷やす、解熱鎮痛薬を使用する
[評価]☆☆
[評価のポイント] 専門家の意見と経験から支持されています。ただし、子どもにアスピリンを使用してはいけません。


よく使われている薬をEBMでチェック

予防のためのワクチン
[薬名]流行性耳下腺炎ワクチン(2)~(5)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 1歳から1歳3カ月の間に1回目、5歳から6歳時の2回目の2回接種で、発症を予防し、合併症の発症率を低下させます。

解熱薬
[薬名]アンヒバ/アルピニー/カロナール(アセトアミノフェン
[評価]☆☆
[評価のポイント] アセトアミノフェンは副作用がほとんどなく、子どもにも安全に使用できる解熱鎮痛薬です。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
ワクチン接種で予防する
 この病気に対するワクチン接種の予防効果は確実であることが、信頼性の高い臨床研究によって明らかになっています。任意接種となっていますが、有効性の極めて高いワクチンであることから、1歳から1歳3カ月の間に1回目と、5歳から6歳時に2回目の、計2回のワクチン接種が推奨されています。

ウイルスを排除する治療法はない
 原因となるウイルスの増殖を抑制したり、体外への排泄(はいせつ)を促したりする治療法はありません。さまざまな症状や苦痛を軽減することを目的とした処置が、経験的に行われるのが実情です。
 たとえば、耳や筋肉の痛みに対して、痛みどめや湿布薬を、発熱に対して解熱薬を用います。口のなかが乾いたり皮膚粘膜に脱水がみられたりしたら、水分の摂取量を増やしたり輸液をすることなどによって水分の補給に努めます。あたたかい牛乳やおかゆ、スープなどの流動食も勧められます。
 また、小児科を受診する際は、耳下腺が腫れていることを電話などで伝えましょう。ほかの患者さんにうつらないように、違う待合室を設けている施設が多いので、受付で案内してもらいましょう。

合併症がみられた場合
 意識状態が変化する、けいれんやめまい、嘔吐(おうと)で水が飲めないなどの場合は入院が必要です。速やかに医療機関を受診しましょう。

感染力が強い病気
 とくに、耳下腺の腫れがおこる1日前から腫れがひくまでは、ムンプスウイルスの感染力が強くなっています。耳下腺が腫れて5日が経過し、かつ全身状態がよくなるまでは保育所や幼稚園、学校は休まなくてはいけません。

(1)文部科学省. 学校において予防すべき感染症の解説. http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/__icsFiles/afieldfile/2013/05/15/1334054_02.pdf アクセス日2015年3月28日
(2)Peltola H, Jokinen S, Paunio M, et al. Measles, mumps, and rubella in Finland: 25 years of a nationwide elimination programme.Lancet Infect Dis. 2008;8:796-803.
(3)Deeks SL, Lim GH, Simpson MA, et al.An assessment of mumps vaccine effectiveness by dose during an outbreak in Canada.CMAJ. 2011;183:1014-1020.
(4)Yung CF, Andrews N, Bukasa A, et al.Mumps complications and effects of mumps vaccination, England and Wales, 2002-2006.Emerg Infect Dis. 2011;17:661-7; quiz 766.
(5)Dayan GH, Rubin S.Mumps outbreaks in vaccinated populations: are available mumps vaccines effective enough to prevent outbreaks?Clin Infect Dis. 2008;47:1458-1467.
(6)日本小児科学会. 日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュールの主な変更点. 2014年10月1日. http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/vaccine_schedule.pdf アクセス日2015年3月23日

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

知恵蔵 「おたふくかぜ」の解説

おたふくかぜ

流行性耳下腺炎のこと。ムンプスウイルスの感染により発症する。発症すると耳の前や下が脹れて「お多福」のようになることから、「おたふくかぜ」と呼ばれる。
ムンプスウイルスは感染者の唾液(だえき)の中に含まれており、くしゃみやせきなどの飛沫(ひまつ)・接触により感染する。感染後、2~3週間の潜伏期間を経て発症する。主な症状として、耳の下にある耳下腺や顎下腺など唾液腺の脹れと痛み、発熱などが現れる。治療法は、基本的に対症療法で、発熱や痛みに対しては解熱鎮痛剤の投与、脱水に対しては輸液などを行う。通常は1~2週間で軽快する。
学校保健安全法において第2種感染症に定められており、耳下腺、顎下腺または舌下腺の腫れが発現したあと5日を経過し、かつ全身状態が良好となるまで出席停止とされている。
2018年、Twitterなどでおたふくかぜがハワイで流行していると話題になった。ハワイ現地メディアの「Hawaii News Now」によれば、通常、ハワイのおたふくかぜの患者数は年間10人程度だが、17年3月の流行開始後から現在までの患者はその100倍の1000人にも達したということだ。
ただし、日本の16年のおたふくかぜの報告数は、15万8996件であり、日本のおたふくかぜの感染者は、ハワイとは比較にならないほど多い。
その理由は、ワクチンの接種率が低いことにある。
日本では、1989年に、麻しんワクチンの定期接種時に、麻疹・おたふくかぜ・風疹の混合ワクチン(MMR)が選択可能となった。そのため、接種率が上昇し、91年にはおたふくかぜの患者報告数は減少した。しかし、ワクチンによる無菌性髄膜炎の発症が社会問題となり、93年にMMRワクチンの接種は中止。おたふくかぜワクチンは任意接種となった。
その後、現在に至るまで任意接種が続き、おたふくかぜワクチンの接種率は3~4割程度である。世界121カ国がMMRワクチンの2回接種を定期接種に組み込んでおり、先進国でおたふくかぜワクチンの定期接種が導入されていない国は日本だけである。そのため、日本のおたふくかぜは数年ごとに流行が繰り返されている。
こうした現状から、日本小児科学会など17の学術団体から構成される予防接種推進専門協議会は、2018年5月、おたふくかぜワクチンの定期接種化に関する要望書を厚生労働省あてに提出した。
おたふくかぜにより生じる合併症は髄膜炎、脳炎、精巣炎、ムンプス難聴などが知られている。中でも、ムンプス難聴は、最近の調査により患者の1000人に1人の頻度との報告や、200~500人に1人とした報告もあり、かなり発症頻度が高いことが推測されている。また発症すると回復が難しく、重い障害を負うことになる。こうした合併症は予防接種により減少させることができる。
一方、ワクチンが原因で起こる副反応について、小児科医が予防接種歴の有無で追跡調査した報告によれば、おたふくかぜの自然罹患(りかん)により生じる髄膜炎が約80人に1人(1.24%)なのに対して、予防接種の副反応としての髄膜炎の発症頻度は、0.01~0.05%であるとされている。
現在、無菌性髄膜炎になる可能性がより低いおたふくかぜワクチンを含む混合ワクチンが開発中である。しかし、その登場を待つだけでなく、おたふくかぜ感染によって起こる合併症とワクチンの副反応のリスクを比べて、任意であったとしても予防接種するかどうかを検討する必要がある。

(星野美穂 フリーライター/2018年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

家庭医学館 「おたふくかぜ」の解説

おたふくかぜりゅうこうせいじかせんえん【おたふくかぜ(流行性耳下腺炎) Epidemic Parotitis】

[どんな病気か]
 ムンプスウイルスの感染でおこる病気です。「お多福(たふく)」のような顔になるのでおたふくかぜともいいます。
●かかりやすい年齢
 母親からもらった免疫体(めんえきたい)があるので、乳児はこの病気にはかかりません。かかりやすいのは2~7歳の子どもです。人によっては、青年期になってからかかる人もいます。終生免疫(めんえき)ができるので、一度かかれば生涯かかることはありません。
●流行する季節
 ふつうは、冬から秋にかけて多発しますが、都会では1年中発生します。
[症状]
 20日前後の潜伏期を経て発病します。
 初めに熱が少し出て、頭が痛み、そのうちに片側または両側の耳たぶの下(耳下腺(じかせん))が腫(は)れてきます。片側だけが腫れた場合は、2~3日おくれて反対側が腫れてくることがあります。
 腫れるときに耳下腺が痛みます。腫れが最大になるのは3日目ごろで、腫れたところを押すと痛み、食べるために顎(あご)を動かしても痛みます。しかし、色が変わることはありません。
 発熱が40℃になることもありますが、腫れた耳下腺が熱をもつことはありません。
 その後、1週間くらいで腫れがひき熱が下がり、痛みも消えて治ります。
●合併症
 発病後1週間くらいで、ムンプス髄膜炎(ずいまくえん)や髄膜脳炎(ずいまくのうえん)を併発することがあります(約10%)。強い頭痛がして吐(は)き、重症になると意識混濁やけいれんがおこります。
[治療]
 このウイルスに有効な薬はなく、対症療法が中心です。
●家庭看護のポイント
 熱のある間は安静にし、高熱のときは頭を冷やします。腫れた耳下腺を冷湿布(れいしっぷ)し、口中の清潔のためにうがいをします。
 食事はかまなくていいようにやわらかいものにし、つばが出るときに痛むので、すっぱい食物は避けます。
 髄膜炎の疑いがあるときは、医師の指示にしたがうことがたいせつです。
[予防]
 感染を防ぐため、耳下腺の腫れが消失するまで、学校は休ませます。希望すれば予防接種を受けることができます(予防接種とはの「予防接種の種類」)。

出典 小学館家庭医学館について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「おたふくかぜ」の意味・わかりやすい解説

おたふくかぜ

流行性耳下腺炎

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

栄養・生化学辞典 「おたふくかぜ」の解説

おたふくかぜ

 →流行性耳下腺炎

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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