おたふくかぜ(読み)おたふくかぜ(英語表記)Mumps

知恵蔵 「おたふくかぜ」の解説

おたふくかぜ

流行性耳下腺炎のこと。ムンプスウイルス感染により発症する。発症すると耳の前や下が脹れて「お多福」のようになることから、「おたふくかぜ」と呼ばれる。
ムンプスウイルスは感染者の唾液(だえき)の中に含まれており、くしゃみせきなどの飛沫(ひまつ)・接触により感染する。感染後、2~3週間の潜伏期間を経て発症する。主な症状として、耳の下にある耳下腺顎下腺など唾液腺の脹れと痛み、発熱などが現れる。治療法は、基本的に対症療法で、発熱や痛みに対しては解熱鎮痛剤の投与脱水に対しては輸液などを行う。通常は1~2週間で軽快する。
学校保健安全法において第2種感染症に定められており、耳下腺、顎下腺または舌下腺の腫れが発現したあと5日を経過し、かつ全身状態が良好となるまで出席停止とされている。
2018年、Twitterなどでおたふくかぜがハワイ流行していると話題になった。ハワイ現地メディアの「Hawaii News Now」によれば、通常、ハワイのおたふくかぜの患者数は年間10人程度だが、17年3月の流行開始後から現在までの患者はその100倍の1000人にも達したということだ。
ただし、日本の16年のおたふくかぜの報告数は、15万8996件であり、日本のおたふくかぜの感染者は、ハワイとは比較にならないほど多い。
その理由は、ワクチン接種率が低いことにある。
日本では、1989年に、麻しんワクチンの定期接種時に、麻疹・おたふくかぜ・風疹混合ワクチン(MMR)が選択可能となった。そのため、接種率が上昇し、91年にはおたふくかぜの患者報告数は減少した。しかし、ワクチンによる無菌性髄膜炎の発症が社会問題となり、93年にMMRワクチンの接種は中止。おたふくかぜワクチンは任意接種となった。
その後、現在に至るまで任意接種が続き、おたふくかぜワクチンの接種率は3~4割程度である。世界121カ国がMMRワクチンの2回接種を定期接種に組み込んでおり、先進国でおたふくかぜワクチンの定期接種が導入されていない国は日本だけである。そのため、日本のおたふくかぜは数年ごとに流行が繰り返されている。
こうした現状から、日本小児科学会など17の学術団体から構成される予防接種推進専門協議会は、2018年5月、おたふくかぜワクチンの定期接種化に関する要望書を厚生労働省あてに提出した。
おたふくかぜにより生じる合併症は髄膜炎、脳炎、精巣炎、ムンプス難聴などが知られている。中でも、ムンプス難聴は、最近の調査により患者の1000人に1人の頻度との報告や、200~500人に1人とした報告もあり、かなり発症頻度が高いことが推測されている。また発症すると回復が難しく、重い障害を負うことになる。こうした合併症は予防接種により減少させることができる。
一方、ワクチンが原因で起こる副反応について、小児科医が予防接種歴の有無で追跡調査した報告によれば、おたふくかぜの自然罹患(りかん)により生じる髄膜炎が約80人に1人(1.24%)なのに対して、予防接種の副反応としての髄膜炎の発症頻度は、0.01~0.05%であるとされている。
現在、無菌性髄膜炎になる可能性がより低いおたふくかぜワクチンを含む混合ワクチンが開発中である。しかし、その登場を待つだけでなく、おたふくかぜ感染によって起こる合併症とワクチンの副反応のリスクを比べて、任意であったとしても予防接種するかどうかを検討する必要がある。

(星野美穂 フリーライター/2018年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「おたふくかぜ」の意味・わかりやすい解説

おたふくかぜ

流行性耳下腺炎

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栄養・生化学辞典 「おたふくかぜ」の解説

おたふくかぜ

 →流行性耳下腺炎

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