デジタル大辞泉 「難聴」の意味・読み・例文・類語
なん‐ちょう〔‐チヤウ〕【難聴】
2 ラジオなどの放送が聞きとりにくいこと。「
難聴について理解していただくために、まず、「聞こえ」の仕組みについて説明します。
耳は図1のように、①
外耳道はいわゆる「耳の穴」で、その入口から鼓膜までの距離は大人で約3.5㎝ですが、子どもではそれより短く、10~15歳ころにほぼ成人の長さになります。また、外耳道は、なかほどから外が前下方へカーブしているので、耳介を少し後上へ引っ張って、外耳道がまっすぐになるようにすると奥まで観察しやすくなります。
鼓膜は厚さ0.1㎜以下の非常に薄い膜で、直径8㎜くらいの楕円形をしています。
鼓膜の内側の中耳は、前端が耳管という細い管になって、鼻の奥の突き当たり、
耳管は、中耳にたまった液体を排出するはたらきと、あくびや物を飲み込む時に一瞬開いて中耳の圧力を大気圧に調整するはたらきがあります。飛行機や高い山などで耳が詰まった時に、唾を飲んだり、あくびをすると楽になるのは、耳管が開いて中耳圧が調整されるからです。普通の大人なら、3~4回の
子どもの耳管は大人より少し短く、水平に近い走行で、軟らかく未成熟です。このため子どもでは、かぜで鼻炎や咽頭炎を起こすと、細菌が上咽頭から耳管を通って中耳に侵入し、中耳炎を起こしやすくなります。また、軟らかさのためにかえって物を飲み込んでも耳管がうまく開かず、飛行機の降下時に中耳圧が平衡できずに強い耳痛を起こしたりします。
内耳は、耳の入口から約5㎝の深い骨のなかにあり、
蝸牛は名前のとおり、かたつむりの形をしており、巻き始めの基底部分が高い音、回転が進んだ上の部分になるほど低い音を感じるようになっています。
蝸牛のなかで音を感じているのは、有毛細胞という毛の生えた特殊な細胞ですが、この細胞は、傷害されていったん死んでしまうと二度と再生しません。内耳性の難聴が治りにくいのは、このような有毛細胞の
また、有毛細胞は、とくに病気をしなくても年齢とともに蝸牛の基底部分、つまり高い音を感じる部分から次第に脱落していきます。高齢になると、誰でも耳が聞こえにくくなるのはこのためです。
音は耳介で集められて外耳道に入り、鼓膜を振動させます。鼓膜の振動は3つの耳小骨をへて内耳に伝えられ、内耳の有毛細胞で振動が細胞内の電気的信号に変換されます。音の信号は、ここで聞こえの神経に伝達され、さらに脳へと送られます。
この経路のなかのどこが病気になっても、難聴の原因となります。
難聴の患者さんの診察では、まず外耳から鼓膜までを直接観察します。たとえば
しかし、中耳の深い部分や耳小骨の異常は、直接観察できません。この場合は、聴力検査に加えてCTなどの画像検査を行います。
さらに、内耳になると、全体像はCTやMRI検査でわかりますが、有毛細胞などの構造は小さすぎて画像でも見ることができません。
したがって、難聴の診療では聴力検査などの機能検査が非常に大切です。
聴覚には、単に音の有無がわかるだけでなく、さまざまな側面があります。したがってその検査にも、ピーッピーッという単純な音(純音)の聞こえを検査する純音聴力検査だけでなく、語音の弁別を調べる語音聴力検査、音の大きさの変化の弁別能を測る検査、持続する音に対する反応をみる検査など、多くの種類の検査があります。
さらに、鼓膜の状態を検査するティンパノメトリー、音への反射をみるアブミ骨筋反射検査、
最近は、難聴の早期発見、早期治療を目指して聴性脳幹反応や耳音響放射検査を用いた新生児聴覚スクリーニング検査も行われることが多くなってきました。また、小さな子どもでは、音に対する反射や、遊びなどを取り入れた特別な検査法が必要になります。
このように、難聴の診断と治療のために、いろいろな聴覚検査が行われます。それぞれの詳しい内容については、本書の病気の解説を参照してください。
内藤 泰
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
耳の聞こえる力が悪い状態をいう。正常の人が聞こえる最小の強さの音(最小可聴閾値(いきち))が聞こえず、音をそれよりも強くしないと聞こえない状態である。
[河村正三]
音波は外耳道から入り、外耳道の奥にある鼓膜を振動させる。この振動が鼓膜の裏についているツチ骨、さらにキヌタ骨、アブミ骨(耳小骨連鎖)を経て、内耳に入る。そこまでの器官を聴覚の伝音器とよび、伝音器のどこかに病気があるためにおこった難聴を伝音難聴という。耳垢(じこう)が外耳道にいっぱい詰まった耳垢栓塞(せんそく)や中耳炎などによる難聴がこれであり、治療により改善が可能である。伝音難聴の場合は量的な難聴だけなので、音をある程度強くすれば明瞭(めいりょう)に聞き取ることができる。したがって補聴器は非常によく効く。
[河村正三]
伝音難聴に対して、内耳より奥(中枢側)にある聴覚の器官(感音器官)に病気があるためにおこった難聴を感音難聴という。内耳に入った音波による振動は内耳液を振動させ、内耳液に接触しているコルチ器の感覚細胞が振動を神経の刺激に変換して、この細胞に連結している聴神経を興奮させる。聴神経は頭蓋(とうがい)内に入り、脳橋の中にある聴神経核で終わる。この核でさらに中枢の神経が刺激され、その神経が興奮するというように、四つか五つの神経(聴覚中枢経路)を経て、大脳の聴野にある聴覚中枢で音を感じ取るのである。内耳からここまでが感音器官である。感音難聴では量的なだけではなく質的な聞こえ方も侵されることが少なくなく、治療による改善は伝音難聴と比べて非常に困難であることが多いばかりでなく、補聴器の使用には適切な訓練が必要である。
一方、病気がある部位によって難聴の性質も異なるので、感音難聴はさらにいくつかの難聴に区別されている。内耳に病気のあるものを内耳性難聴という。感覚細胞に病気が限局していると、音の強さがわずかに変化しても、正常の人よりも大きく感ずる傾向があるので、補聴器の使用の際に音が大きくなりすぎないような注意が必要である。このもっとも典型的なものは内耳炎とメニエール病による難聴である。ストレプトマイシン、カナマイシンのようなアミノ配糖体抗生剤をはじめとした薬剤による難聴、非常に強い音が原因でおこる音響外傷性難聴、騒音のある場所あるいは職場でおこる騒音性難聴や職業性難聴、加齢によっておこる老人性難聴、頭部外傷性難聴、妊娠している母親が風疹(ふうしん)にかかったために新生児におこる先天性風疹症候群の難聴、多くの遺伝性難聴などはいずれも内耳性の難聴である。内耳よりも中枢の聴覚の神経経路に病気があるためにおこるものを後(こう)迷路性難聴という。聴神経腫瘍(しゅよう)では異常な聴覚順応を示すのが特徴的である。聴神経核より中枢の病気によるものを、中枢性難聴という。中枢性難聴は量的な障害よりも質的な障害が大きいのが特徴である。
[河村正三]
難聴の程度を表現するのに、500と2000ヘルツの聴力レベルに1000ヘルツの聴力レベルを2倍にして加え、4で割った数値(四分法)を用いることが多い。その数値により、軽度難聴(聴力レベルが40デシベル以下)、中等度難聴(40から60デシベル)、高度難聴(60から80デシベル)および聾(ろう)(80デシベル以上)を区別することがある。しかしこの数値の計算方法はいろいろあり、定まった方法はない。一方、難聴のある周波数から高音難聴や低音難聴などと表現することもある。
[河村正三]
耳に種々な障害があって,きこえの能力が低下または消失している状態をいう。〈耳が遠い〉と表現され,耳鳴りを伴うことが多い。きこえの仕組みはたいへん複雑であるが,解剖学的に大別すると,音が物理的に処理される伝音機構である外耳,中耳と,生物学的に精巧な神経支配を受ける感音機構である蝸牛(内耳),聴神経,聴覚中枢に分類でき,最終的には大脳の側頭葉にある聴皮質中枢において知覚される。そこで,障害部位によって難聴にもそれぞれ特色があり,一般に伝音性難聴と感音性難聴,混合性難聴に分類されるが,これらは聴力検査によって鑑別診断することができる。
(1)伝音性難聴 外耳,中耳が障害されたために発生した難聴であり,耳垢栓塞,外耳道異物,耳管狭窄症,鼓膜外傷,各種の中耳炎,ベートーベンが罹患した耳硬化症の初期などにみられる。この場合の難聴の特徴は音をある程度大きくすると正常人と同様にききとれることであり,また骨伝導による聴力は正常であるために,たとえば電話の受話器を通した声などはよくききとれる。さらに伝音機能がまったく廃絶しても音エネルギーの一部は蝸牛に直接流入するため完全な聴力消失(聾(ろう))をきたすことはない。
(2)感音性難聴 これはさらに内耳性難聴と後迷路性難聴に大別される。両者の大きな相違は,内耳(蝸牛)が障害された内耳性難聴では,音が大きく響いて困るというレクルートメント現象(補充現象)を示すことである。内耳性難聴は過大な音を突然きいたために起こる音響外傷,長年月の間,強大音にさらされたために起こる騒音性難聴(職業性難聴ともいう),ストレプトマイシンに代表される聴器毒による中毒性難聴,めまい発作を伴うメニエール病,原因不明であるが突然に高度の難聴をきたす突発性難聴などがその代表例である。難聴の程度はある特殊な周波数帯域,たとえば,4000Hzのみが低下する場合から全聾になるものまで多種多様である。一方,後迷路性難聴は聴神経腫瘍で代表される脳腫瘍や片麻痺などを伴う脳循環障害の場合にみられるが,その特徴は音がきこえるのに言葉のきき分けが著しく障害されることであり,老人性難聴が高度になると後迷路も同時に障害されるためにこの傾向を示し,補聴器が有効に使用できない場合がある。
(3)混合性難聴 伝音性難聴と感音性難聴の両者の特徴を有する。
難聴を発生時期からみると,すでに胎生期において生じることがあり,母体が風疹に罹患した場合に新生児は高度の難聴を示す。また血族結婚や,遺伝形質により聴器の発育不全を伴う先天性難聴があり,これらは難聴が高度であるために言葉の習得ができず聾啞(ろうあ)となる。また小児期に多発するものとして流行性耳下腺炎(おたふく風邪)に伴う難聴があり,多くは一側性であるため会話に不自由しないが,方向感覚が失われる。
難聴の治療はその種類によって根本的に異なる。伝音性難聴の場合には原疾患の治療や鼓膜,耳小骨連鎖などの伝音機構の修復手術によって聴力改善が期待できる。また補聴器の装用によって,眼鏡による視力改善同様に補聴効果が得られるが,最近,中耳埋込み型補聴器の研究も進められている。これに反して感音性難聴の場合には,手術による聴力改善は望まれないために内科的な保存療法によらざるをえない。しかし突発性難聴などは早期の加療によってかなり回復するために,その啓蒙が必要である。補聴器の効果は伝音性難聴ほど期待できないが,近年特殊な回路がくふうされてきたため装用訓練によって高度な難聴に対しても有用となった。また高度難聴を示す幼児に対しては,言葉の獲得という観点からできるだけ早期に特殊教育を施す必要があるが,補聴器の早期装着によって残聴を利用して情報をききとる努力がなされている。そのためには乳児の聴力を正確に把握する必要があり,聴性脳幹反応や音刺激に対する体動を利用する他覚的聴力検査法が進歩,普及してきた。また,高度難聴者の蝸牛内に多数の電極を埋め込んで音声を電気信号に変換してきかせる人工内耳の研究も進んでおり,日本においてもかなり実用化されている。
→聴力検査 →補聴器 →耳
執筆者:佐藤 恒正
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 鼓膜に穴(穿孔(せんこう))があって閉じないときは,慢性中耳炎とよばれる。難聴と耳からの排膿(耳漏,みみだれ)がみられるが,痛みはほとんどない。鼓膜の穿孔だけの場合は慢性化膿性中耳炎,穿孔部から外耳の皮膚が中耳に入りこむと慢性真珠腫性中耳炎とよぶ。…
…外耳や中耳の異常のため音を伝える構造に変化がおこって難聴があるとき,手術してこれを処置し,きこえをよくすることができる。これらの手術を総称して聴力改善手術という。…
…聴覚に異常のなかった人が突然難聴になることで,その特徴として次の三つの主症状があげられる。すなわち,(1)突発的に難聴が発現する,(2)難聴の性質は高度の感音性難聴である,(3)難聴の原因が不明,の三つである。…
…すなわち中耳の働きが正常に行われるには,鼓膜とそれにつながる耳小骨連鎖に可動性があること,前庭窓,蝸牛窓も可動性があって,耳骨の機能もよいことが条件となる。これらのいずれか一つに病変が生じると難聴となる。 音が鼓膜を振動させると,その振動は耳小骨に伝わり,あぶみ骨を振動させる。…
※「難聴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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