アバターラ(英語表記)avatāra

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アバターラ」の意味・わかりやすい解説

アバターラ
avatāra

サンスクリット語権化化身降臨の意。神が世を救うために,幾度もこの世に姿を現すこと。インド思想史上,この考え方は,有力神が他の多くの神々と同一視されたことに端を発する。特にビシュヌ信仰に顕著で,大慈悲をそなえたビシュヌ神は,悪人を滅ぼし,善人を救うために,重要な相として,通常,魚,かめ,いのしし,人獅子,こびと,パラシュラーマ,ラーマ,クリシュナ,仏陀カルキの 10種の姿でこの世に降臨したと信じられている。

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世界大百科事典(旧版)内のアバターラの言及

【インド神話】より

…このガルダは,母を奴隷にした蛇族に復讐するため,蛇(竜)を食べるとされる。プラーナ文献において,ビシュヌの化身(アバターラavatāra)神話が整備された。化身の種類と数については種々の説があり,必ずしも一定しないが,特に,猪(バラーハ),人獅子(ヌリシンハ),亀(クールマ),侏儒(バーマナ),魚(マツヤ),ラーマ,パラシュラーマParaśurāma,クリシュナ,ブッダ,カルキKalkiの10種の化身が最も一般的である。…

【クリシュナ】より

…ヒンドゥー教の神。ビシュヌ神の化身(アバターラavatāra)の一人で,ラーマ王子とともにインドの民衆にこよなく愛され続けてきた英雄神である。クリシュナは前7世紀以前に実在した人物であるとみなされ,遊牧に従事していたヤーダバ族Yādavaの一部ブリシュニ族に生まれたという。…

【権化】より

…一般に一神教的な思想と多種多様な信仰形態を調和させ,特定の強力な神仏が種々に顕現するという形で,起源の異なる種々の神格を統一して特定の神仏に帰するという,諸信仰の習合の合理化として現れる。ヒンドゥー教信仰に現れるアバターラAvatāraの訳語として用いる場合は,本体の神は天上界にありつづけ,その体の一部だけを地上に降下させ,それが化身となって活動する――たとえば10の権化をもつとされるビシュヌの第8の権化クリシュナKṛṣṇa(〈黒〉の意)はビシュヌの黒い頭髪を地上に降下させたものとされる――という形で,本体と化身の関係を合理的に説明している観念であることに注意しなければならない。仏教ではとくに観音があらゆる地域を通じ,人々の危難に際しそれを救うにふさわしい姿で権化する者として信仰を集めた。…

【ビシュヌ】より

…ブラフマーはそのへそに生えた蓮花から現れたといわれる。ビシュヌは種々に化身(アバターラavatāra)して,悪魔に苦しめられる生類を救うとされる。化身の種類と数についてはさまざまな説があるが,なかでも,猪,人獅子(ヌリシンハ),亀,侏儒,魚,ラーマ,パラシュラーマ,クリシュナ,仏陀,カルキの10化身が有名である。…

【ビシュヌ派】より

…ここにヒンドゥー教の有力な一派としてのバーガバタ派が成立したのである。この派では,ビシュヌの化身(アバターラavatāra。権化とも訳される)ということが強調されている。…

【ヒンドゥー教】より

…そのうちビシュヌ神は元来太陽神で,ベーダ時代にはあまり目だたない存在であったが,大叙事詩以来主要神格の一つとされ,とくに慈愛に満ちた神として崇拝される。女神ラクシュミー(仏教で吉祥天となる)を妃とし,十種の化身(アバターラ)を現して人類を救済するという。その化身には,魚,亀,猪,人獅子,小人バーマナ,斧を手にするラーマ,ラーマ,クリシュナ,仏陀,カルキがあり,最も重要な化身は《バーガバタ・プラーナ》などの中で活躍するクリシュナである。…

【ラーマクリシュナ】より

…25歳のときタントラ派(タントラ)の女性行者ヨーゲーシュバリーと出会い,自分の修行をヒンドゥー神秘思想の系譜に位置づけることができた。彼女の指導下にタントラ派の64種の行法のすべてを成就し,ヨーゲーシュバリーは彼を神の化身(アバターラ)であると確信した。次にビシュヌ派の行法を学ぶ。…

※「アバターラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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