神や仏、あるいは超自然的存在が、ある目的をもって人間あるいは動物などの姿となり、かりに現れた状態、またその形相をいう。サンスクリット語アバターラavatāraの漢訳。化現(けげん)、応現(おうげん)、権現(ごんげん)、示現(じげん)ともいい、権化した形を化身(けしん)という。英語のインカーネーションincarnationにあたり、とくにキリスト教では受肉(じゅにく)、化肉(けにく)、託身(たくしん)と訳す。
[坂部 明]
インドでは古来、神々がこの世に権化するとされる説が根強くある。とくに有名なのは慈悲に満ちたビシュヌ神の権化説で、魚、亀(かめ)、野猪(やちょ)、人獅子(にんじし)、矮人(わいじん)、パラシュラーマ(斧(おの)を持つラーマ)、ラーマ、クリシュナ、ブッダ、カルキの順に10回権化して人間を救うという。ラーマとクリシュナは『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』の二大叙事詩に登場する英雄であり、ブッダは歴史上のゴータマ・ブッダ(釈迦(しゃか))をさし、カルキは未来の悪世に登場して人々を救うという。また一般にインドの神々はウシ、サル、ニワトリ、ヘビなどの動物となって権化するとされる信仰があり、今日までインド人の生活に溶け込んでいる。
[坂部 明]
原始仏教においては、古来からあった神々を認めなかったが、大乗仏教に入ると護法神として徐々に取り入れていった。ゴータマ・ブッダが弟子たちのよりどころとして認めたのは、普遍的な真理としてのダルマ(法)であった。しかし仏滅後、弟子たちはゴータマ・ブッダを永遠の理法が権化したものとみるようになり、いくつかの仏身論が展開されていった。わが国では、神道の神々の本地(ほんじ)は仏(ぶつ)・菩薩(ぼさつ)であるとする本地垂迹説(ほんじすいじゃくせつ)の神仏習合思想が平安時代以後一般化した。
[坂部 明]
神が人類を救うために、神の子としてイエスという人格が現れたとするのを唯一とする。この説はすでにパウロにみられ、その後大論争を経て正統の教義として認められた。
[坂部 明]
神仏が衆生を救うために権(かり)に姿をかえて現れること。またはその化身。一般に一神教的な思想と多種多様な信仰形態を調和させ,特定の強力な神仏が種々に顕現するという形で,起源の異なる種々の神格を統一して特定の神仏に帰するという,諸信仰の習合の合理化として現れる。ヒンドゥー教信仰に現れるアバターラAvatāraの訳語として用いる場合は,本体の神は天上界にありつづけ,その体の一部だけを地上に降下させ,それが化身となって活動する--たとえば10の権化をもつとされるビシュヌの第8の権化クリシュナKṛṣṇa(〈黒〉の意)はビシュヌの黒い頭髪を地上に降下させたものとされる--という形で,本体と化身の関係を合理的に説明している観念であることに注意しなければならない。仏教ではとくに観音があらゆる地域を通じ,人々の危難に際しそれを救うにふさわしい姿で権化する者として信仰を集めた。またチベットのラマ教では,ダライ・ラマは観音の,パンチェン・ラマは阿弥陀仏の転身とされる。日本では権化,権現,権者(ごんざ),応現,化現,示現はほぼ同じ意味で用いられる。民族信仰の諸神格と仏教の信仰対象とを結びつけ調和させようとする本地垂迹(ほんじすいじやく)説でしばしば用いられ,たとえば天照大神はその本地とされる大日如来の垂迹した権化とされているのである。
執筆者:高橋 明
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…この派では,ビシュヌの化身(アバターラavatāra。権化とも訳される)ということが強調されている。後世有名なのは〈10化身〉説で,それによれば,ビシュヌはこの世に,魚,亀,野猪,人獅子,小人,パラシュラーマ,ラーマ,クリシュナ,ブッダ,カルキとして現れるという。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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