日本大百科全書(ニッポニカ) 「クリタイムネストラ」の意味・わかりやすい解説
クリタイムネストラ
くりたいむねすとら
Klytaimnestra
ギリシアの神話・伝説中、屈指の悪女。スパルタ王ティンダレオスとレダの娘。ヘレネは妹、ディオスクロイは兄弟にあたる。初めタンタロスに嫁ぐが、彼がミケナイ(ミケーネ)王アガメムノンに殺されたのちは、そのアガメムノンといっしょになり、イフィゲネイア、エレクトラ、クリソテミス、オレステスを生んだ。しかし彼女は、夫アガメムノンがトロヤ遠征で留守の間にアイギストスと密通し、彼と組んで帰国した夫を謀殺した。さらにミケナイの覇権を簒奪(さんだつ)し、アイギストスとの間に子供までもうけるが、のちにわが子オレステスとエレクトラによってアイギストスともども殺された。
ホメロスでは、その姿はまだか弱い女性にすぎないが、ギリシア悲劇では悪女に転化し、アイスキロスでは悪魔的な姿が、ソフォクレスでは絶対権力者としての姿が、それぞれ強調される。一方エウリピデスでは、一転して悪女ながらも人間的な弱さを抱えた母親という色彩が濃い。いずれにせよ、古来奸婦(かんぷ)の典型として有名である。
[丹下和彦]