日本大百科全書(ニッポニカ) 「ディオスクロイ」の意味・わかりやすい解説
ディオスクロイ
でぃおすくろい
Dioskuroi
ギリシア神話の双子神カストルとポリデウケスのこと。「ゼウスの息子たち」の意味であるが、母のレダがティンダレオスの妻であることから、ティンダリダイ(「ティンダレオスの子」の意)ともよばれる。母のレダが、白鳥の姿に身を変じたゼウスと交わったその同じ夜、夫のティンダレオスとも床をともにしたため、ゼウスとの間からは、ポリデウケスとヘレネが、またティンダレオスとの間からはカストルとクリタイムネストラが生まれた。カストルは死すべき身、つまり人間で、ポリデウケスは不死の身、つまり神であるとされるが、ホメロスによれば両者とも人間となっている。
あるときディオスクロイは、イダスとリンケウスの兄弟とともに、アルカディアから分捕り品の牛を連れ出し、その分配をイダスに任せた。ところが大食漢のイダスの策略から牛を全部巻き上げられたので、彼らはメッセネまで奪い返しに行き、いったんは取り戻したがカストルはイダスに殺された。ポリデウケスはリンケウスを槍(やり)で殺すが、イダスを追跡中に彼に石を頭に投げられて倒れ、このときゼウスが雷霆(らいてい)でイダスを撃ち、ポリデウケスを天上に連れていった。ポリデウケスはカストルが死者となっている限り自分の不死を受けることを拒絶したため、ゼウスは2人に1日交替に神々と人間の間にいることを許した。つまりポリデウケスの不死を2人で分かち合うことにしたのである。一説ではゼウスは両者を天上に連れていき、冬の夜空を飾る星座に加えたという。これがふたご座Geminiである。さらに彼らは航海の守護神となったが、暴風雨のときに船の舳(へさき)に現れる「聖(セント)エルモの火」は、もともとディオスクロイの出現と信じられていたようである。
[伊藤照夫]