改訂新版 世界大百科事典 「ピナコリン転位」の意味・わかりやすい解説
ピナコリン転位 (ピナコリンてんい)
pinacolone rearrangement
ピナコールが酸触媒存在下でピナコリンに転位する反応(式(1))。
ピナコリンはドイツ語で,英語ではピナコロンpinacoloneといい,この反応もピナコロン転位ということがある。ピナコールはケトンに金属マグネシウムを作用させて得られる1,2-ジオールで(式(2)),これに希硫酸などの酸を作用させると水が脱離して生ずる第三級カルボニウムイオンにアルキル基が転位して,ピナコリンが生成する。
ピナコリンはカルボニル基のα位にアルキル基が3個結合したきわめて立体的に込み合ったケトンであり,ピナコリン転位はこの種のケトンの合成法として優れている。たとえば,シクロペンタノンより生成するピナコールを酸で処理すると,スピロ炭素をもつケトンが高収率で得られる(式(3))。
また式(4)に示すように環式ピナコールをこの転位反応にかけると,メチル基の転位が優先的に起こり,環式ケトンを生成する。
ピナコリン転位は,ケトンから容易に合成できる対称構造をもつピナコールを酸処理することにより,非対称なケトンを合成するためのきわめて重宝な合成法として今日でも使用されている。
→転位
執筆者:友田 修司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報