転位(読み)てんい(英語表記)dislocation

翻訳|dislocation

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

転位
てんい
dislocation

(1) ディスロケーションともいう。線状の格子欠陥の1種。結晶がある格子面上を部分的に滑ったとき,滑った部分と滑らない部分との境界線に生じる原子配列の乱れ。滑った量と向きを表わすベクトル b をバーガース・ベクトルと呼ぶ。転位のまわりには b に比例し,転位線からの距離に逆比例する弾性ひずみと応力が生じる。結晶の塑性は結晶面に沿った滑り変形であるが,転位はこれを説明するために 1934年に G.I.テーラーらによって導入されたものであり,58年以降に電子顕微鏡やX 線回折投影法により直接観察された。転位と b が平行な螺旋転位,垂直な刃状転位,およびそれらの混合転位がある。 b が結晶の周期性と一致する転位を完全転位,一致しないものを部分転位という。部分転位は積層欠陥を伴う。転位の滑り運動にはパイエルス力が働くほか,転位相互間や不純物原子などとの間に力が働く。塑性変形とともに転位は増殖され,そのために動きにくくなって加工硬化が生じる。転位は結晶塑性において基本的役割を果すだけでなく,空格子点などの生成消滅電気伝導,結晶成長などにも大きく寄与する。 (2) 分子内転位

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デジタル大辞泉の解説

てん‐い〔‐ヰ〕【転位】

[名](スル)
位置が変わること。また、位置を変えること。
固体の結晶内部で線状に起きる、一連の原子の位置ずれ。
分子内で2個の原子または原子団がその位置を取り換えること。
displacement精神分析用語。ある対象に向けられていた感情が、本来の対象から他のものに置き換えられること。置き換え。

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世界大百科事典 第2版の解説

てんい【転位 rearrangement】

化学用語。分子内の原子または原子団の結合の位置が変化すること。これには分子内で結合の組換えが起こることを含む。有機化学反応では分子内で原子(団)がもとの場所から別の場所に移るタイプの反応が数多く知られている。これらは大別して,(a)中性分子で起こる転位,(b)カチオン系で起こる転位,(c)アニオン系で起こる転位,の三つに分類される。(1)の場合,コープ転位(式(1)),クライゼン転位(式(2))などがあり,これらは電子環状反応electrocyclic reaction(〈ウッドワード=ホフマン則〉の項参照)の一種である。

てんい【転位 dislocation】

結晶学用語。ディスロケーションともいう。格子欠陥の一種で,原子の配列あるいは結晶格子の乱れが一つの線に沿って生じているものをいう。結晶固体に外から引張りや圧縮などの力を加えると,ある程度以上大きい力に対しては,変形を起こしたまま元に戻らない(塑性変形)。変形が元に戻らないのは,原子のつなぎかえが起きることによるものであるが,これにあずかるのが転位である。転位の概念萌芽は1900年ころまでさかのぼることができるが,塑性変形を担うものとしてその重要性が認識され,近代的な形で導入されたのは,1934年イギリスのテーラーGeoffrey Ingram Taylorらの研究によってである。

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精選版 日本国語大辞典の解説

てん‐い ‥ヰ【転位】

〘名〙
① 位置が変わること。また、位置を変えること。
※蔭凉軒日録‐永享一二年(1440)四月一九日「永泰院周隆侍者、為関東使節故、参暇于天龍寺、転位于蔵主
※日本の思想(1961)〈丸山真男〉一「『郷党社会』をモデルとする人間関係と制裁様式〈略〉が底辺から立ちのぼってあらゆる国家機構や社会組織の内部に転位して行くプロセスと」
② 金属その他の結晶格子の中に生じる一種の格子欠陥。金属材料などでは、この格子欠陥の部分で配列原子のずれを生じやすく、それが金属の延展性や材料強度と関係をもつと考えられている。
③ 有機化合物分子内の原子や原子団が結合状態を変えること。分子内転位。
④ 一般に感情が一つの対象から離れて、別の対象に向けられること。特に、精神分析の用語で、たとえば人を殺すことが抑圧によって禁止されると他の動物を殺すというような現象をさす。

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化学辞典 第2版の解説

転位
テンイ
dislocation

結晶体のなかで原子の配列が部分的に正規のものからずれている部分を欠陥とよぶが,この欠陥が線状をなしているときこれを転位という.正規の配列からのずれのベクトルをバーガースベクトルとよび,これは転位の大きさと性質を表す.バーガースベクトルが欠陥線(転位線)と直角のとき,この転位を刃状転位,平行のとき,らせん転位という.結晶中ではこれらの中間の状態にあり,刃状成分とらせん成分をもつ.結晶のほとんどすべての塑性変形が転位の移動の結果であり,転位を用いることで変形抵抗,変形能,加工硬化などを理論的に検討できる.転位の濃度は単位体積中の延べ長さで表すが,金属結晶の場合,溶解凝固時からかなりの量が発生し,焼なましによって減少する.しかし,なお 10-6 cm cm-3 の転位が残る.結晶に応力が加わると転位の移動が起こるが,同時にフランクリードの機構などにより 1013 cm cm-3 まで増殖する.刃状転位は特定すべり面中のみを移動できるのに対して,らせん転位にはこのような制約はない.しかし,ほかの転位と交差すると刃状部分ができ,そのバーガースベクトルの関係により動きにくくなる.転位の移動は完全結晶のすべりよりはるかに容易であるため,転位のない(正確には可動転位のない)物質は非常に強いはずである.事実,ひげ結晶はこのような材料で,非常に細かい結晶を注意深く調整することにより可動転位をなくしているが,Cuでは3000倍近い降伏強さの上昇がみられる.

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世界大百科事典内の転位の言及

【加工硬化】より

…これを加工硬化,もしくはひずみ硬化という。塑性変形を支配する因子には材料中の転位の運動,双晶変形,すべり変形が挙げられるが,加工硬化には転位が大きく関与する。すなわち,塑性変形に伴い転位が増殖され,それが不均一な分布となり,互いにもつれ合うことで運動する転位に対する障害となり,それ以上の転位の運動が抑制されるために変形抵抗が増す。…

【格子欠陥】より

…格子欠陥には点状,線状,面状のものがある。点状の欠陥としては,本来の原子の種類と異なる不純物原子の存在,正規の格子点から原子が抜けてしまっている空格子点,正規の格子点でない位置に原子が入り込んだ格子間原子があり,線状の欠陥としては塑性変形に関与する転位がある。また,面状の格子欠陥としては,多結晶の粒界,結晶面の積重なり方の欠陥などがある。…

【塑性】より

…これが永久変形を安定化する理由である。 面のずれは,一つの面に沿っていっせいに起きるのではなく,転位と呼ばれる格子欠陥の動きに伴って,順繰りに起きる。転位は動きやすく,また,動きながら自己増殖をするので,塑性変形の過程で,結晶中の転位の数は急激に増加する。…

※「転位」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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