化学辞典 第2版 の解説
ボルン-オッペンハイマー近似
ボルンオッペンハイマーキンジ
Born-Oppenheimer approximation
分子を構成する原子核と電子の質量差は,一番軽い原子核である陽子と電子でも1836倍の開きがある.それゆえ,電子の運動を議論するときは,あたかも原子核が静止しているポテンシャル内を運動しているように取り扱うことができる.この近似を断熱近似というが,最近は,これと同意義にボルン-オッペンハイマー近似という用語が使われている.1927年にM. BornとR. Oppenheimerが論文を発表したときは,分子のエネルギーを電子の質量mと原子核の平均質量Mとの比の4乗根,すなわち,
で展開し,κ0 の項が電子エネルギーを,κ2 の項が分子の振動エネルギーを,κ4 の項が分子の回転エネルギーに対応することを示した.その後,かれらの結果を踏まえて断熱近似が定式化されたので,断熱近似そのものをボルン-オッペンハイマー近似というようになった.ただし,原子核の相対運動のはげしいときなどには,断熱近似,すなわちボルン-オッペンハイマー近似の成立しないことが指摘されている.また,原子衝突を取り扱うときによく使われるボルン近似に,電子交換の効果を取り入れる方法にもボルン-オッペンハイマー近似と名づけられている近似法がある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報