翻訳|proton
素粒子の一つで、プロトンともいう。正の電荷をもち、大きさは電子のそれに等しい。現存の素粒子論では、電荷2/3のuクォーク2個と-1/3のdクォーク1個からできていると考えている。陽子は大きさをもち、その広がりは約10-13センチメートルである。中性子とともに原子核の構成要素であるので、陽子と中性子の総称として核子といわれる。原子核の種類は原子番号と質量数で指定され、化学的性質は原子番号で決まる。原子番号は陽子の個数であり、質量数は陽子と中性子の個数の和で指定される。陽子の質量は1.6726×10-24gで、電子の約1836倍である。スピン1/2でフェルミ‐ディラック統計に従い、その磁気モーメントは約2.7928eħ/2mpcである(mpは陽子質量、ħはプランク定数hの2π分の1)。
真空技術の発達に伴って19世紀なかばに始まる陰極線の研究は、イギリスのJ・J・トムソンによる比電荷(e/me)の測定により電子の存在を確立した(1897)。一方、陽極線の研究は、それが分子線(イオンビーム)であったため、比電荷は陰極線に比べ非常に小さいこと(約数千分の1)がわかったが、その値はばらばらで陽子の存在を確立するに至らなかった。イギリスのE・ラザフォードは、金箔(きんぱく)や白金箔でのα(アルファ)粒子の散乱で大きな散乱角のものが多い現象を分析して、原子のほぼ全質量が原子の中心の非常に狭い領域に集中していることを明らかにし(1911)、原子は、原子のほぼ全質量を担う原子核と、それを取り巻く電子からできているとする原子模型を実証した。こうしてもっとも軽い水素原子の原子核として陽子の存在が確立した。
宇宙の物質が安定に存在するために、陽子は他の素粒子に崩壊せず安定であることが要求されるが、約1031年以上の半減期で崩壊していても現存の観測事実と矛盾しない。ちなみに、宇宙の年齢は約1.3×1010年である。電磁相互作用、弱い相互作用、強い相互作用の三つの相互作用を統一的に記述する大統一理論(GUT)では、核子数が保存しない相互作用を含むので、陽子が約1031~1032年の半減期で崩壊することを予言する。
この理論によれば、大爆発(ビッグ・バン)により現存の宇宙が創生される際に、この核子数非保存とCP不変性の破れ(時間反転対称性の破れ)の相乗効果がおこり、その結果、宇宙が物質のみからなり、物質―反物質の対称性が失われていることをよく説明する。陽子崩壊の実験的検証に期待が集まっている。
[益川敏英]
プロトンともいう。中性子とともに原子核を構成する素粒子で,両者を核子と総称する。陽子はふつうpで表され,電荷+e,質量数1,スピン1/2,アイソスピン1/2であり,質量は,
mP=1.6726231×10⁻27kg=938.2723MeV
である。異常磁気モーメントをもち,g因子は5.5856912である。陽子は水素原子の原子核であり,水素イオンとして陽子がつくられる。同位体として質量数が2の重陽子(デューテロン),質量数が3の三重陽子(トリトン)が存在する。
陽子の発見は,1886年ドイツのE.ゴルトシュタインが,陰極線の実験において陽極からも放射線が出ていることを見いだしたのに始まる。98年にはW.ウィーンによってこの放射線が正の電荷をもった粒子からなることが明らかにされ,そのような粒子探索が試みられた。実験において観測された正電荷をもつ粒子のうちもっとも軽いものは,質量が水素原子と同じで,電子の電荷とは大きさが同じで反対の符号の電荷をもつ粒子であった。これは水素原子のイオンであるが,その後この粒子は他の原子の構造においても重要な単位であることが明らかとなり,これがすべての原子の根元的物質であるとの考えから,第1を意味するギリシア語のprotosにちなんでプロトンと名付けられたのである。
陽子は中性π中間子を放出,吸収するという能力をもち,また荷電π中間子を放出,吸収して中性子に転化するという作用をする。陽子・陽子間,あるいは陽子・中性子間にπ中間子を交換し,これによって核力を生ずるというのが湯川秀樹の理論である。核力によって核子は結合し原子核をつくる。この相互作用は電磁相互作用などに比べて強いので,陽子,π中間子などは強い相互作用をする粒子という意味でハドロンと呼ばれる。
陽子および中性子は原子核の素(もと)という意味で素粒子と名付けられたのであるが,現在では物質の根元をなす基本的粒子ではないことが明らかになっている。陽子に電子を衝突させる実験により,陽子は点電荷ではなく0.8fm(1fm=10⁻15m)程度の半径の広がりをもつ,いいかえれば陽子は構造をもつことがわかった。さらに高エネルギーの電子や中性微子を衝突させることにより陽子を破壊することが可能で,クォークでできていることが観測される。すなわち陽子はuクォーク2個とdクォーク1個からなる複合体である。
陽子が他の粒子に崩壊するという現象は見いだされていない。しかし理論上は陽子が軽粒子やπ中間子に転換することも可能である。もし陽子が崩壊するとすれば,その寿命は1031年よりは長い。
→素粒子
執筆者:宮沢 弘成
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プロトンともいう.水素 1H の原子核.中性子とともに一般元素の原子核の構成要素となる素粒子.1866~1911年の間に,E. Goldstein,W. Wien,J.J. Thomsonらにより,気体放電の陽極線に発見され,その本質が研究された.荷電+e.質量1.672621637(83)×10-27 kg = 1.00727646688(13)u(原子質量単位),すなわち,電子の質量の1836.1526675(39)倍.スピン(1/2)ℏ.磁気モーメントμp = 2.792775597(31)μN(核磁子単位).
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…もともとはこれ以上分割できない恒常不変な最小のものと考えられていたが,20世紀初期に原子核と電子とから構成されていることが明らかにされた。また,原子内の状態もいろいろに変わりうることがわかり,その後,さらに原子核が陽子と中性子とから構成されていることも明らかとなった。高速の原子核をもう一つの原子核に衝突させると,それらの原子核が壊れて他種の原子核に変わることもある。…
…これが原子である。原子は確かに物質を構成する基本粒子であり,化学的性質を保つ最小の単位ではあったが,しかし20世紀に入ると,この原子はそれ自身決して分割不可能なものでなく,中心に原子核という小さな粒子があって,そのまわりをいくつかの電子という小さな粒子が回っていることが明らかにされ,さらに原子核も陽子と中性子の複合体であることがわかった。このように物理学が対象とした万物が原子からなり,その原子がすべてこの3種類の小さな粒子(陽子,中性子,電子)でできているとすれば,これらの小さな粒子こそ,もっとも基本的なものであり,このためこれらの粒子は自然を構成する素元的な粒子という意味で〈素粒子〉と呼ばれるに至ったのである。…
※「陽子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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