内科学 第10版 「今後の展望」の解説
今後の展望(アレルギーに関与する細胞・分子)
気管支喘息における気道粘膜組織,といった慢性アレルギー疾患の疾患局所においては,実にさまざまな細胞種,液性因子が存在し,病態を形成している.これらの細胞・液性因子のおのおのを同定するとともに,互いのクロストークを明らかにしてアレルギー反応への関与機序を把握することは,アレルギー性慢性炎症の正確な理解,治療確立には欠かせないものである.研究の進展に伴い,マスト細胞,好酸球,好塩基球などの局所炎症細胞と組織を構成する上皮細胞や線維芽細胞,平滑筋細胞など相互の関連が,分子のレベルから語られるようになってきた.また,近年解析が進んでいるアレルギー疾患の原因遺伝子の知見も,病態の理解に役立っている. すでに実用化されている抗IgE抗体療法のほか,生物製剤や阻害薬を用いたサイトカイン阻害,ケモカイン阻害,細胞内シグナル伝達系を治療標的とする戦略の臨床効果が試されつつある.この成果は,新たな治療戦略の確立に貢献するだけでなく,臨床現場において特に治療に難渋する重症喘息などの慢性アレルギー疾患の安定期・増悪期にいずれの因子が病態形成に関与するのかを明らかにするものである.今後さらに,疾患の治癒のために有用な標的が解明されることが期待される.[山口正雄]
■文献
Barnes PJ: New therapies for asthma: is there any progress? Trends Pharmacol Sci, 31: 335-343, 2010.
Hsu FI, Boyce JA: Biology of mast cells and their mediators. In: Allergy: Principles and Practice, 7th ed (Adkinson NF Jr, Bochner BS, et al eds), pp311-328, Mosby, Philadelphia, 2009.
羅 智靖:マスト細胞:感染防御の最前線からアレルギーまで.アレルギー病学(山本一彦編),p55-63,朝倉書店,2002.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報