気管支喘息(読み)きかんしぜんそく(英語表記)bronchial asthma

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

気管支喘息
きかんしぜんそく
bronchial asthma

アメリカ胸部疾患学会の定めた定義によると,気管支喘息とは気道反応性の亢進と可逆性の気道狭窄を特徴とする疾患で,いろいろな刺激に対して気管支の反応が高まって,広範な気道狭窄によって発作性に始まる喘鳴,咳,呼吸困難などの症状が繰返し起るが,その症状の強さは自然にあるいは治療によって変化する疾患をいう。また特定の心肺疾患によるものは除外される。発病は 10歳以前が多いが,壮年期老年期にも発病する。原因によって,特定のアレルゲンを吸入して起る外因性喘息と,特定のアレルゲンが認められない内因性喘息に分けられる。後者は,呼吸器感染や,ストレスに対する心因反応として生じる。最近は,大気汚染による喘息も増加している。対策として最も有効なのは,原因を取除くことである。発作時にはイソプロテレノールの吸入,アミノフィリン塩酸エフェドリンなどが効果がある。副腎皮質ホルモン剤も有効である。

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百科事典マイペディアの解説

気管支喘息【きかんしぜんそく】

アレルギーや細菌感染によって起こる,数分から数日にわたる気管支腔の狭小化による呼吸困難。発作性の息切れと喘鳴(ぜんめい)を伴う。気管支粘膜の腫脹(しゅちょう),粘液の分泌亢進,気管支壁平滑筋の収縮による。アレルギー性の場合は,体質的な基礎の上に特殊な花粉・ほこり等の吸入により発生。大気汚染により悪化する。→喘息
→関連項目アレルギー性疾患アレルギー反応アレルギー・マーチ気候療法気象病公害病小児喘息鎮痙薬テオフィリン白血球増加症副腎皮質ホルモン剤ラッセル音

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世界大百科事典 第2版の解説

きかんしぜんそく【気管支喘息 bronchial asthma】

気管支喘息とは,発作性の呼吸困難と喘鳴(呼吸時のヒューヒュー,ゼーゼーという音)を特徴とする呼吸器疾患である。
[歴史]
 asthma(喘息)の語はギリシア語に由来し,〈あえぎ呼吸〉の意味である。喘息についての記載は,すでにヒッポクラテスによってなされており,その中で〈asthmaになったら怒りをしずめよ〉と心理的要因の重要性を説いている。今日,日本語として使われている〈喘息〉という文字は,中国最古の医書《素問》や《霊枢》(《黄帝内経》)にみることができる。

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大辞林 第三版の解説

きかんしぜんそく【気管支喘息】

アレルギー反応などによって気管支の平滑筋が痙攣けいれんをおこし細くなるため、発作的に呼吸困難をおこす病気。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

気管支喘息
きかんしぜんそく

可逆的な広範な気道閉塞(へいそく)により、ゼーゼー、ヒューヒューという喘鳴(ぜんめい)を伴う発作性の呼吸困難をおこす疾患で、特定の心・肺疾患によらないものをいう。気道閉塞は、気管支平滑筋のれん縮、粘膜の浮腫(ふしゅ)、粘液分泌の増加によりおこる。
 病因については古くより多くの説があり、そのこと自体が発症機序の複雑性を物語っているが、主因をなすものはアレルギーと気道過敏性である。気道過敏性は、気管支平滑筋を収縮させる作用のあるヒスタミン、アセチルコリン、メサコリンなどを吸入させて検査することができる。その反応性は健常人に比べて約100倍も過敏である。このため種々の物理的、化学的気道刺激により喘息発作がおこることになる。またアレルギーの機序による喘息発症は、主として型アレルギー反応が気道でおき、化学伝達物質が遊離されて気道の狭窄(きょうさく)をおこすことによるが、アレルゲンとして重要なのは室内塵(じん)(おもにダニ)、カビ類、花粉類、動物の毛やふけなどである。種々の職業性喘息もある。このほか、気道感染、天候の変化、気温の急激な変化、精神的ストレス、運動、過労、過食なども喘息の誘発ないし増悪因子となる。アスピリンなどの消炎鎮痛剤によりおこる、いわゆるアスピリン喘息もある。発症には遺伝的素因も重要な役割を演じており、遺伝が濃厚なほど小児期に発症する。
 気管支喘息は、その発症機序によりアトピー型(外因性ともいわれ、アレルギーの関与が明らかなもの)と感染型(内因性ともよばれ、感染が重要な要因をなしているもの)および混合型とに分類されるが、アトピー型のものは10歳以下に、感染型は40歳以後に発病するものが多い。発生率は全人口のほぼ1%である。
 症状としては、喘鳴を伴った呼吸困難発作をおこし、治まってしまえば完全に元の状態に戻る(可逆性)のが特徴である。痰(たん)は粘稠(ねんちゅう)で喀出(かくしゅつ)が困難なことが少なくない。気道感染を合併すると痰は膿(のう)性となる。わずかな喘鳴を伴うだけの軽症のものがある反面、重症になると起坐(きざ)呼吸をするようになる。チアノーゼの出現は危険信号である。発作の寛解期は無症状であるが、慢性型となると発作間欠期にも喘鳴がほとんど常時存在する。発作は夜半ないし早朝におこることが多く、季節的には秋、梅雨時に多い。発作時には肺野全体に乾性ラ音(聴診によって聞こえる一定の高さの連続音)が聴取され、肺機能検査では1秒率の低下、気道抵抗ないし呼吸抵抗の増加が認められる。アレルギー検査も原因アレルゲン検索、治療方針決定のために必須(ひっす)のもので、皮膚反応、RAST、吸入誘発試験、血清IgE値測定などが行われる。
 治療としては、原因アレルゲンや種々の発作誘発・増悪因子を取り除き、避けることがたいせつである。対症療法としては、気管支拡張作用のある交感神経刺激薬、テオフィリン系薬、抗コリン薬が単独または併用して使われ、抗ヒスタミン薬、鎮咳(ちんがい)剤、去痰薬、抗生剤なども症状に応じ使用される。重症喘息では副腎(ふくじん)皮質ステロイド薬が必要となる。発作が毎日のようにおこる場合には、発作予防作用のある化学伝達物質遊離抑制薬(吸入薬のインタール、内服薬のトラニラストやケトチフェン)、全身的副作用がほとんどない吸入用ステロイド薬であるベクロメサゾン(定量噴霧式ネブライザー)が使われる。原因アレルゲンの除去・回避が不可能な場合には減感作療法が行われる。非特異的変調療法として金(きん)療法やヒスタミン加ヒトγ(ガンマ)グロブリン療法なども行われる。小児の喘息の60~80%は成長とともに消失する。成人の喘息は症状が持続するものが少なくないが、適切な治療により日常生活に支障ないよう症状を改善することができる。重篤な発作ではときに死亡することもあるので注意が必要である。[高橋昭三]

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精選版 日本国語大辞典の解説

きかんし‐ぜんそく キクヮンシ‥【気管支喘息】

〘名〙 息を吐きだすのが困難で、ゼイゼイ鳴る発作性の呼吸困難をおもな症状とした症候群。気管支が痙攣(けいれん)し、気管支粘膜が腫れ、粘液の分泌が高進して、気管支が狭くなるためにおこるといわれる。アレルギー体質の人に多い。

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内科学 第10版の解説

気管支喘息(アレルギー・免疫性疾患)

定義・概念(図7-4-1)
 気管支喘息(喘息)は,①発作性あるいは反復性の呼吸困難・咳・喘鳴などの自覚症状,②気管支拡張薬・治療・自然経過などで変動しやすい気流制限(可逆性気流制限)の存在,③軽微な刺激で気流制限が誘発されやすい(非特異的気道過敏性),などの特徴をもつ疾患である.現在では,可逆性気流制限と非特異的気道過敏性という生理学的特徴は,好酸球・リンパ球・マスト細胞を主体とする慢性気道炎症により惹起されることが明らかとなり,「慢性気道炎症性疾患」と認識されている.これに伴う平滑筋収縮・粘膜浮腫・気道分泌亢進が気流閉塞や喘息症状の原因となる.また,気道炎症の持続により気道平滑筋肥厚,気道上皮基底膜下線維化,杯細胞過形成などで特徴づけられる「気道リモデリング」が生じることにより気流制限の可逆性が失われ,喘息が重症化・難治化すると考えられている.このような病態解明を背景に,喘息診断・治療戦略の改善が日々続けられている(日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会,2009).
分類
 近年,喘息に多様な表現型(フェノタイプ)があることが知られるようになり,単一疾患ではなく症候群としてとらえるべきと考えられるようになってきた(Borishら,2008).以下にいくつかの喘息病型を示し概説する.
1)アトピー型と非アトピー型:
古くからの分類である.アトピー型喘息(atopic asthma)は環境アレルゲンに対する特異的IgE抗体が関与する病型で,IgE依存型あるいは外因型喘息ともよばれる.非アトピー型は特異的IgE抗体が関与しない病型で,IgE非依存型あるいは内因型喘息ともよばれる.小児では約90%,成人では約50~70%がアトピー型である.しかし,両病型で気道炎症像や気道過敏性などには大きな差異は認められない.
2)気道炎症パターンによる病型:
誘発痰中の細胞分画解析より,好酸球(eosinophilic)型,好中球(neutrophilic)型,非多核白血球(pauci-granurocytic)型に分類することが可能であり,炎症パターンごとに重症度や治療反応性が異なる可能性が指摘されている.
3)その他の特殊な病型:
 a)運動誘発喘息(exercise-induced asthma):運動(特に冷気吸入下)により喘息発作が誘発されやすい喘息患者の一群があり,運動誘発性喘息とよばれる.運動に伴い,蒸発により気道から水分が失われ,気道表面の浸透圧が上昇,同時に気道の表面温度が低下するために生ずると考えられている.現在では,特殊な病型というよりも,喘息の重症例やコントロール不良例に見られる特徴と考えられている.運動前にβ刺激薬やクロモリン酸(DSCG)などを吸入させることで抑制可能である. b)咳喘息(cough variant asthma:CVA):喘鳴や呼吸困難などの症状を伴わず,咳のみを自覚症状とする病型である.夜間から早朝に増強する慢性咳が特徴であり,気道過敏性と痰中好酸球増加を伴えば咳喘息と診断する.鎮咳薬は効果なく,吸入ステロイド薬(ICS)が奏効する.
原因・病因
1)個体(遺伝)因子:
喘息発症に遺伝的要因が関与することは従来の疫学的研究から明らかである.両親に喘息があると子どもの発症リスクは3~5倍増加する.その遺伝本体に関する研究では,ゲノム網羅的関連解析(genome-wide association analysis:GWAS)を含めた網羅的遺伝子解析が喘息あるいはアレルギー素因・気道過敏性などの喘息関連表現型に対して応用され,ADAM33,ORMDL3,CHI3LI,PDE4D,IL-33,TSLPなど多くの候補遺伝子が報告されている.これら候補遺伝子には,気道上皮・平滑筋・線維芽細胞などの機能や自然免疫などに関するものが多く含まれており,抗原特異的IgE・Th2細胞などを主軸とする喘息概念から,より広く,各種外因性ストレスに対する気道反応パターンの差異を重視する考え方へと変化しつつある.
2)環境因子:
喘息発症の原因因子としては吸入性アレルゲンが最も重要である.室内アレルゲンとしてチリ,ダニ,動物毛・上皮(ネコ,イヌ,ハムスターなど),カビ類(アスペルギルス,カンジダなど)がある.屋外アレルゲンとして花粉(スギ,シラカバ,雑草),昆虫類(ユスリカなど)がある.また,職業性感作物質にも注意が必要である(ソバ,小麦,イソシアネートなど).発症促進因子として,喫煙,大気汚染,ウイルス感染などが指摘されているが,その正確なメカニズムは不明である.また,RSウイルス,ライノウイルスなどによる呼吸器感染症も喘息発症と密接に関連すると考えられている.一方,乳幼児期細菌感染の減少が喘息増加因子となるのではないかという「衛生仮説(hygiene hypothesis)」も注目されている.乳幼児期のTh1細胞系免疫発達への刺激が欠如するため,生後からのTh2細胞優位のまま成長し,アトピー素因が獲得されるという考え方である.
疫学
 喘息有症率は,小児では1960年代に一般人口の約1%程度であったものが約10%に,成人では1%から約6%に増加している.開発途上国に少なく,先進国に多い.また,寒冷地に少なく,温暖地に多い.男女比では,若年例ほど男性有意で,思春期以後は女性有意となる.
病態生理
(図7-4-2) 喘息症状は気道炎症に伴う平滑筋攣縮 ・粘膜浮腫・気道分泌物貯留・気道リモデリングなどにより生ずる.アレルギー性気道炎症にはCD4陽性ヘルパーT細胞(Th2細胞),IgE産生を促すIL-4・IL-13,好酸球を活性化するIL-5,マスト細胞を活性化するIL-3・IL-9などのサイトカインが中心的役割を果たすことが知られている(Borishら,2008) .また,最近では,自然免疫系を介して刺激された気道上皮から分泌される,TSLP・IL-18・IL-25・IL-33などが,IgEの関与なしにTh2細胞を活性化させる経路も明らかにされた.さらに,気道上皮や好酸球から放出される各種成長因子(PDGF・EGF・TGF-βなど)や蛋白分解酵素(ADAM33など)とその阻害因子(MMPs,・TIMPなど)の作用により,気道リモデリング(平滑筋・気道上皮・腺細胞増殖と気道壁線維化など)が惹起されることも明らかになってきた.
臨床症状
1)自覚症状:
典型的には,喘鳴・呼吸困難・胸部拘扼感(chest tightness)・咳などが繰り返し生ずる.これら自覚症状は特異的ではないが,喘息では,それが発作性あるいは反復性に生ずることが特徴である.具体的には,日内変動(特に深夜から明け方に強い)や季節的変動(春・秋に多い)があり,風邪などの後に上記症状が現れ,遷延する.また,気道過敏性を反映して,軽微な環境からの刺激(特定の環境や状態,冷気吸入,運動,刺激物質の吸入など)で症状が出現するのも特徴である.喘鳴を伴わず咳のみを症状とする「咳喘息」があるため,遷延性・慢性咳患者では注意が必要である.長期経過例では,気道リモデリングが進行し,気流制限の可逆性が失われるため症状が持続性となる.
2)他覚症状:
強い咳や喘鳴は他覚的に感知可能である.胸部聴診では連続性ラ音(wheezes・rhonchi)が聴取されるが,これらのラ音は頸部の聴診でも聴取できることが多い.軽症例では,呼気を最後まで行わせると,残気量位近くでラ音が誘発されることが多い.ときに断続性ラ音である水泡音(coarse crackle)も聴取される.逆に重症例では,連続性ラ音も聴取されず,呼吸音も消失する“silent chest”状態となることがあるので注意が必要である.同時に出現するチアノーゼ・意識低下・会話困難・補助呼吸筋使用などの所見にも注意する.
検査成績
1)呼吸機能検査:
スパイログラムでは,通常1秒率(FEV1%)は低下する(<70%)が肺活量(%VC)は正常(>80%)である閉塞性換気障害パターンを呈する.重症になるにつれ%VCの低下も加わり混合型となることが多い.軽症例ではスパイログラムに異常を認めない場合も多い.簡便なピークフロー(PEF)測定も有用であり,%PEF<80%,日内変動>20%を異常の目安とする.気流制限の可逆性は,通常,気管支拡張薬(β刺激薬)の吸入前・後で1秒量(FEV1)を測定し判定する.FEV1が12%以上かつ200 mL以上改善する場合「可逆性あり」とする.有症状期と無症状期あるいは治療前後で可逆性を判定することも可能である.PEFの日内変動が大きい場合(>20%)も「可逆性あり」と考える.喫煙者で慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)との鑑別が必要な場合は肺拡散能(DLco)を測定する.喘息では正常ないし軽度上昇するが,COPDでは低下することが多い.
2)気道過敏性検査:
気道過敏性検査では,平滑筋収縮薬(メサコリン,アセチルコリン,ヒスタミンなど)を低濃度から順次濃度を上げて吸入させ,呼吸機能を測定する.わが国では間欠吸入法とアストグラフ法が用いられている.間欠吸入法は平滑筋収縮薬を2分間ごとに吸入させ,1秒量(FEV1)が20%低下する濃度をPC20として気道過敏性を評価する.アストグラフ法では呼吸抵抗(Rrs)が上昇し始める時点までの累積薬物濃度(Dmin)で評価する.喘息患者では健常者ではまったく反応しないような低濃度(1/100程度)でも気道収縮が惹起される.また,喘息患者では,呼吸機能が全く正常な場合でも気道過敏性を示すため,軽症例の診断にも有用である.気道過敏性検査は気流制限を誘発する負荷試験であるため,呼吸機能低下例では適応の有無を十分考慮する必要がある.
3)慢性気道炎症の評価:
気道炎症は気道粘膜生検や気管支肺胞洗浄(BAL)液検査で証明可能だが,侵襲性が高いため日常臨床現場では用いない.痰あるいは高張食塩水吸入による誘発喀痰中の好酸球増加やECP(eosinophil cationic protein,好酸球カチオン蛋白質)増加,呼気一酸化窒素(NO)の上昇は好酸球性気道炎症の存在を示唆する.末梢血好酸球増加,血清ECP上昇も気道炎症と相関する.
4)アレルギー学的検査:
アトピー型喘息が多いためアレルギー学的検査も喘息診断の一助となる.各種吸入性抗原に対する即時型皮内反応,血清総IgE,抗原特異的IgE測定などを行う.抗原特異的IgEレベルは抗原吸入時の気道反応と相関する.
診断
 上述の自覚症状に加え,可逆性気流閉塞ないし気道過敏性が存在すれば喘息と考える.ほかの症状がほかの呼吸器疾患によらないことが確認されれば,気管支喘息と診断してよい.好酸球性気道炎症の存在は喘息の存在を強く示唆する.
鑑別診断・合併症
 表7-4-1に鑑別すべき疾患を示した.喘鳴・呼吸困難・咳などを呈する多くの呼吸器疾患が鑑別の対象となる.合併症としては気胸・縦隔気腫・肋骨骨折・無気肺などがある.気管支喘息を部分症としてもつ疾患としてアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(allergic bronchopulmonary aspergillosis:ABPA)やアレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss症候群)に注意が必要である【⇨7-4-2)-(3),10-8-(8)】.
経過・予後
 喘息は慢性疾患であり成人で寛解に至る症例は少ない(10~20%) .小児喘息では50~70%の患者が自然寛解するとされているが,寛解者で成人期に再発する例も多い.近年の吸入ステロイドを主体とする治療法の確立により,喘息コントロールと患者QOLが著しく改善,喘息死も1990年代の約6000人から2010年代には約2000人へと約1/3に減少している.一方,喘息死における高齢者比率が約90%を占めるまで上昇しており,高齢者においても重要な疾患であるとの認識が必要である.
治療・予防・リハビリテーション
1)発作予防:
原因抗原が明らかな場合は抗原吸入の回避により,喘息発作を予防し,慢性症状を軽減させることが可能である.特に,ペットなどの動物抗原が原因の場合,職業性喘息などでは有効である.室内環境改善や布団やマットレスのダニ防止カバーなどで発作が減少するとの報告がある.喘息発症を抑制するための一次・二次予防策については,いまだ有効な具体的方策はない.
2)薬物療法:
喘息治療の考え方は,①長期管理と急性期治療(発作への対応)を明確に区別する,②重症度に応じた段階的治療を行う,③長期管理では発作を予防するための抗炎症療法が必須である,④副作用軽減のため吸入療法を主体とする,が基本である.この考え方に沿って,吸入ステロイド薬を主体とする喘息管理ガイドラインが作成されている(日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会監修,2009.
a)抗喘息薬:
 ⅰ)長期管理薬:喘息コントロール達成と維持のため,長期にわたり継続的に使用される薬剤である.副腎皮質ステロイド薬は最も効果的な抗炎症薬である.副作用を最小限に抑えるため吸入ステロイド薬(ICS)として用いるのが基本であり,全身投与は最大量のICSでも管理ができない場合に選択する.長時間作動型β2刺激薬(LABA)は強力な気管支拡張薬であるが,長期管理薬としてはICSとの併用で用いる.ICSとLABAの合剤も使用可能である.抗ロイコトリエン薬(LTRA)は,気管支拡張作用と気道炎症抑制作用を有する薬剤である.徐放性テオフィリン薬・抗アレルギー薬なども抗炎症作用をもつが,作用は弱く,単独治療は軽症例に限られる.近年,分子標的薬としてヒト抗IgE抗体が開発され,重症アトピー性喘息に適応となる.
 ⅱ)発作治療薬:喘息発作治療のために短期的に使用する薬剤である.短時間作動性吸入β2刺激薬(SABA)は平滑筋弛緩作用をもち,発作治療の基本薬である.吸入抗コリン薬はSABAとの併用で気管支拡張効果を増強する.テオフィリン製剤も気管支拡張作用をもつ.わが国では比較的広く使用されているが,血中濃度の治療域と中毒域が近いため,副作用に十分注意しながら使用する.アドレナリン(皮下注)は気道平滑筋弛緩(β2)作用と毛細血管収縮(α)作用をあわせもつ薬剤である.脈拍を130/分以下に保つようにモニターしながら用いる.虚血性心疾患・甲状腺機能亢進症・緑内障などには禁忌であり,欧米のガイドラインでは推奨されていない.重症例ではステロイド薬(経口,全身投与)を用いる.必要に応じて十分量を投与するが,可能な限り短期間とする.アスピリン喘息患者ではステロイド薬あるいはその溶剤で発作が悪化する場合があり注意が必要である.
 b)長期管理:喘息重症度と治療ステップ:喘息重症度は,症状・呼吸機能(FEV1, PEF)とコントロールに要した治療ステップから判定し,軽症間欠型,軽症持続型,中等症持続型,重症持続型,最重要持続型の5段階に分類される(表7-4-2).喘息治療はその強度から4つのステップに分けられる(表7-4-3).ステップ1:症状が月1回以上あれば低用量のICS治療を選択する.ステップ2:低~中用量のICSが基本であり,効果不十分な場合は,追加薬としてLABA,LTRA,テオフィリン徐放薬のいずれかを加える.ICS+LABA合剤も適応となる.ステップ3:中~高容量ICSに複数の追加薬を加える.ステップ4:高容量ICSと追加薬すべての併用を行う.それでも不十分な場合,アトピー型であれば抗IgE抗体使用を考慮する(最重症持続型に適応となっている).それ以外の患者や,抗IgE抗体でも効果不十分な場合は経口ステロイド薬を併用する.上記治療で3~6カ月良好なコントロールが得られていればステップダウンを考慮する.いずれのステップでも発作症状には吸入SABAを用いる.
 c)喘息発作(急性増悪)の管理:喘息発作の強度に対応した管理法を表7-4-4に示す.重症度および治療反応性に応じて発作治療薬を使用する.PaCO2が45 torr以上に上昇する場合は挿管・人工呼吸管理の準備を開始する.喘息発作は病院外で起こるため,患者に応急的な対応方法と病院受診のタイミングを十分指導しておく.次の場合はプレドニゾロン15~30 mg程度(あらかじめ処方しておく)を服用のうえ,直ちに救急外来を受診させる:①中等度以上の喘息症状,②吸入SABAを1~2時間おきに必要とする,③気管支拡張薬で3時間以内に症状が改善しない,④症状が悪化していく.
禁忌
 鎮痛解熱薬(アスピリン)喘息(aspirin induced asthma:AIA)は非ステロイド系抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)の内服・注射・座薬・貼付薬・塗布薬などで重篤な喘息発作を起こす病態である.成人喘息の約10%にみられ,中年女性に多く,鼻疾患(慢性副鼻腔炎や鼻ポリープなど)合併例が多い.アレルギー的機序ではなく,NSAIDsのシクロキシゲナーゼ (COX)抑制作用によると考えられるため,AIA患者への酸性NSAIDs投与は禁忌である.[棟方 充]
■文献
Borish L, Culp JA: Asthma: a syndrome composed of heterogeneous diseases. Ann Allergy Asthma Immunol, 101: 1-8, 2008.
日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会監修:喘息予防・管理ガイドライン2009,協和企画,東京,2009.

気管支喘息(アレルギー性疾患)

 【⇨ 7-4-1)】[岡本美孝]
■文献
鼻アレルギー診療ガイドライン作製委員会:鼻アレルギー診療ガイドライン,第6版,ライフサイエンス・メディカ,東京,2009.奥田 稔:鼻アレルギー―基礎と臨床,医薬ジャーナル社,東京,1999.

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世界大百科事典内の気管支喘息の言及

【アレルギー】より

…すると,これらの化学伝達物質の作用によって,血管の透過性の亢進,平滑筋の収縮,腺分泌の亢進,好酸球の遊走などの反応が起こり,その結果,アレルギー疾患が起こると考えられている。I型のアレルギー反応に属する疾患としては,気管支喘息,アレルギー性鼻炎,蕁麻疹の一部,アナフィラキシーショック,薬物アレルギーの一部,消化管アレルギー,昆虫アレルギーなどがある。 なおIg E産生細胞は抗原と接触する機会の多い気道や消化管粘膜にかなり多いことが知られていて,アレルギー反応の局在性を暗示している。…

【イソプロテレノール】より

l体はα体に比べて90倍くらい作用が強力であるといわれる。臨床的には,その気管支拡張作用を気管支喘息(ぜんそく)の治療に利用する。塩酸イソプロテレノールの水溶液を噴霧し,エーロゾルとして吸入するのが最も有効とされる。…

【喀痰検査】より

…血痰が肺癌の初期症状となることもある。気管支の枝わかれがそのまま鋳型になったような形の粘液やクルシュマン螺旋(らせん)体(気管支喘息(ぜんそく)などのときにみられるもので,螺旋状にねじれた糸状の粘液)など特殊な肉眼的異常がみられる。(2)細菌学的検査 結核菌など特殊な細菌が検出されれば診断を行ううえで意義がでてくるが,喀痰にはつねに口腔内の細菌(常在細菌叢)が混じるため,細菌性肺炎などでは,原因菌の断定にあたっては慎重でなければならない。…

【公害病】より

…(1)第一種地域 事業活動その他の人の活動に伴って,相当範囲にわたる著しい大気の汚染が生じ,その影響による疾病が多発しているが,汚染物質と健康被害との間に特異的な関係がなく,被害者個々人について原因物質を特定することが困難な疾病の多発した地域として指定されているもので,東京都19区,川崎2区,四日市臨海地域,大阪市全域,北九州市洞海湾地域など41地域が指定地域となっている。疾病としては,慢性気管支炎気管支喘息喘息性気管支炎肺気腫とこれらの続発症が定められており,3年間以上これらの地域に居住または通勤した者が指定疾病にかかっている場合に認定されることになっている。認定は,認定を受けようとする者の申請に基づき,指定地域を管轄する都道府県知事,政令市(区)長が医師,法律家などの専門家による公害健康被害認定審査会の意見を聴いて行うことになっている。…

【心臓性喘息】より

…心臓性喘息は慢性心不全患者に睡眠中急に起こるのが特徴的で,まれに日中でも過激な労作を行ったり,精神的興奮によってひき起こされることがある。気管支喘息にかかっている患者が,心臓病をわずらい痙攣性呼吸困難を起こしたりすることもある。したがって心臓性喘息か気管支喘息かの鑑別はむずかしいが,明らかな心臓病が指摘されていて気管支喘息の既往がなければ鑑別診断がつく。…

【喘息】より

…文字上は〈息が喘(あえ)ぐ〉状態,すなわち息がしにくいという状態を意味するが,医学上はこのような状態のすべてをさすわけではなく,突発する(発作性の)痙攣(けいれん)性の呼吸困難を意味し,それがくり返して起こるというニュアンスが含まれている。喘息には気管支喘息と心臓性喘息の二つがある。気管支喘息はアレルギーと気道の過敏性が原因となる気道自体の病気であり,心臓性喘息は高血圧,冠動脈疾患(狭心症,心筋梗塞(こうそく)),大動脈弁疾患,僧帽弁疾患などによって起こった心不全が原因となる。…

【喘鳴】より

…〈ぜいめい〉といわれることもある。気管支喘息で最もよくみられ,攣縮(れんしゆく)し細くなった気管支壁が振動して音が発生し,口から放射される。隣室でも聞こえるような強いものから,聴診器を胸にあててようやく聞きとれるような弱いものまで,その強さはさまざまである。…

※「気管支喘息」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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