取材源の秘匿(読み)しゅざいげんのひとく(その他表記)news source privilege

知恵蔵 「取材源の秘匿」の解説

取材源の秘匿

取材に際しての情報源である人物を特定しうる情報を他に漏らさないこと。ジャーナリスト義務あるいは権利で、ジャーナリストの最高の倫理の1つとされる。これは、情報源との信頼関係を保護すると同時に、情報源を萎縮させずにさまざまな情報を取材し国民に伝達していく上で不可欠である。米国では、いわゆるシールド法(shield law)によって取材源の秘匿を保護している州も多いが、連邦レベルでは認められておらず、2005年7月に、CIA情報員の身元をメディアに漏らした政府高官の氏名証言を拒否したニューヨーク・タイムズ紙の記者が、法廷侮辱罪で収監された。この事件は、取材源の秘匿権を定める連邦法の必要性の議論を巻き起こした。日本では制度上明示的には認められておらず、公正な裁判の実現が優先されることも少なくないが、憲法上、取材の自由の一環として保護されるべきであるとする議論もあり、捜査や裁判に必要な証拠が他の手段で得られる場合には取材源の秘匿をある程度尊重する判例実務が見られる。06年には、米国健康食品会社の日本法人に対する課税処分報道をめぐり、NHK記者や読売新聞記者が情報源についての証言を拒絶したケースで、東京高裁は、民事訴訟法上定められた「職業の秘密」として保護される余地を認める決定を行った。

(浜田純一 東京大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「取材源の秘匿」の意味・わかりやすい解説

取材源の秘匿
しゅざいげんのひとく

取材記者が取材の相手先(取材源,ニュースソース)を相手の承諾なしに記事などで外部に明らかにしないこと。ジャーナリストが守るべき鉄則であり,基本的な職業倫理の一つとされる。取材源の名を具体的に明らかにしないばかりでなく,容易に類推されないように配慮するのも当然の義務とされる。もしこの鉄則が破られると,報道機関に提供される情報はごくかぎられたものとなる。その結果,報道の自由基盤を失い,国民の知る権利は大幅に制約されることになる。取材源の秘匿について日本の法律では明文上の規定はない。新聞記者が取材源を秘匿できなかった著名な事件としては,毎日新聞記者の「外務省公電漏洩事件」(1972。いわゆる西山事件)がある。アメリカ合衆国では 30以上の州でシールド法(取材源保護法)が制定されており,報道機関に従事する者に取材源秘匿権が認められている。

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