台湾総統選(2016年)(読み)たいわんそうとうせん(にせんじゅうろくねん)

知恵蔵 の解説

台湾総統選(2016年)

台湾の国家元首に相当する中華民国総統を選ぶ選挙。2016年1月に第14回総統選挙が行われ、民主進歩党(民進党)の蔡英文(ツァイ・インウェン)主席圧勝した。民進党が政権に就くのは8年ぶりで、女性が総統になるのは台湾史上初となる。就任式は5月、任期は4年である。
中華民国総統選挙は、1948年に第1回が行われ、南京で蒋介石(チアン・チエシー)が総統(75年に死去するまで5期連続)に就任して以来、今回が14回目となる。総統選は、当初は憲法上国権の最高機関である中華民国国民大会(2005年に廃止)の代表による間接選挙として始まった。1949年には、中国共産党により中華人民共和国が建国され、中華民国政府の実効統治区域は台湾及び周辺島嶼(とうしょ)に限られた。蒋介石率いる中国国民党(国民党)は、中国共産党とは内戦を通して激しく対立し、中国全土の覇権を取り戻すことを悲願とする中国本土の政党として存在した。このため、中華民国は戒厳令下の国民党一党独裁となり、大陸選出の国民大会議員は民意を反映しない終身代表となっていた。こうした中で、70年代には国際社会で中華人民共和国が中国の代表権を有する正統政府と認識されるようになった。台湾は90年代には憲法改正により、民主共和制に移行。96年第9回総統選からは国民による直接選挙に変わった。
初の民選となった同選挙では国民党現職の李登輝(リー・トンホイ)が当選。2000年第10回総裁選では、国民党を離党した宋楚瑜(ソン・チューユイ)が立候補したこともあって国民党支持票が流れ、民進党の陳水扁(チェン・ショイピエン)が当選した。08年第12回総統選では馬英九(マー・インチウ)が当選し国民党が政権に返り咲き、12年第13回総選挙では民進党の蔡英文に辛勝した。しかし、馬政権は長引く経済不振から脱却できず、中国寄りともみられる政治姿勢も嫌気されていた。憲法上、総裁は3選が禁止されているため、第14回総統選では別の候補者が立てられた。当初は洪秀柱(ホン・シウチュー)が国民党候補に推され女性対決とも言われていたが、大陸との統一などについて発言が二転三転したために、選挙戦の途中で朱立倫(チュー・リールン)に交代した。このような選挙戦の出遅れが目立ち、国民党は民進党の蔡英文に大差をつけられ惨敗した。蔡英文は台湾独立を明言してはいないが、馬政権の対中接近を強く批判し、脱原発などを掲げている。今回の圧勝の背景には、台湾出身の若い世代を中心とした「台湾意識」の高揚があるとみられている。

(金谷俊秀 ライター/2016年)

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