合理的十分性ドクトリン(読み)ごうりてきじゅうぶんせいドクトリン(英語表記)reasonable sufficiency

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「合理的十分性ドクトリン」の意味・わかりやすい解説

合理的十分性ドクトリン
ごうりてきじゅうぶんせいドクトリン
reasonable sufficiency

ゴルバチョフソ連共産党書記長が示したソ連の軍事ドクトリン。ゴルバチョフ書記長は 1986年の党大会で,安全保障に関し,軍事力だけでは安全を保障できない,相手の安全を脅かす形で自国の安全を保障することはできない,との考えを明らかにした。翌 87年には,すべての軍備を合理的に十分な防衛の必要性をこえない限度まで削減する用意がある,と述べるとともに,「十分性」概念については,可能な侵略を撃退するには十分だが,攻撃行動を実施するには不十分な軍事力であると説明した。これは 90年のソ連国防省ドクトリン草案でも (1) 軍の主要機能は戦争の阻止,(2) いかなる国に対しても軍事行動をしかけない,(3) 核兵器先制使用しない,(4) 戦力の量的優位確保概念の放棄といった内容で示された。8月クーデター以降も再確認されたものの,軍部には異論もあり,ドクトリンの具体的内容は明らかにされなかった。従来の軍拡路線を転換する防御志向のドクトリンは,軍事費削減による経済建直しの緊急性が直接的契機であるにしても,新思考外交の流れにそって出されたものと考えられる。

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