一般に戦争遂行力、つまり対外的な戦闘を行う手段となるいっさいの実力をさす。しかし、戦争の放棄を規定した日本国憲法第9条2項に「陸海空軍その他の戦力」ということばがあり、再軍備の進行に関連して、この戦力の意義が論議の的となった。解釈上、戦力とは何かについて、諸説がある。(1)広義に解する説では、戦力とはなんらかの形で戦争に役だつすべての力をさす。この説によれば、警察力、飛行場、航空機およびその製造工業・重工業、原子力研究など、平時には戦争以外の目的のものでも、いざというときに戦争目的に役だつものはすべて戦力となる。日本国憲法制定当初において有力な説であった。(2)戦争を遂行する目的と機能をもつ組織的な武力をさし、(1)に掲げた平時用のものは除かれる。この説においては、警察力と戦力とをはっきり区別する。警察力とは、目的・装備・編成などの点で国内の治安維持に必要な程度をいい、この程度を超えたものが戦力であって、現在の自衛隊はこの意味の戦力に該当するとされる。この学説をとるものが現在は多い。(3)近代戦争遂行能力を備えた実力をさす。この説によれば、相当高度の組織と装備をもつものでないと戦力にはならないことになる。従来の政府の考え方がこれと一致し、警察力と戦力の間にもう一つの実力(防衛力)があるとされ、したがって、この考え方によれば、自衛隊は防衛力であって、戦力ではないとされる。
自衛隊が憲法第9条2項で保持を禁止された戦力にあたるかどうか争われた裁判には、これまで、長沼事件、百里基地事件などがあるが、この争点について実質的な判断をした裁判は長沼事件札幌地裁判決(1973年9月7日)だけである。この判決は自衛隊を違憲と断定したことで注目され、他方、百里基地事件については、水戸地裁判決(1977年2月27日)が暗に合憲であることを示唆した。しかし、長沼事件控訴審(札幌高裁1976年8月5日)・上告審(最高裁1982年9月9日)とも、また百里基地事件控訴審(東京高裁1981年7月7日)も違憲か合憲かの判断を差し控えており、結局、この問題の決着は国民の判断にゆだねられたという形になっている。
次に憲法第9条2項の戦力とは、日本が指揮管理するものだけをさすのか、駐留する外国軍隊も含まれるのかが問題となる。外国軍隊であっても、日本の防衛について責任を負い、日本がその外国と共同防衛の関係にたつものは、戦力に含まれると考えると、駐留米軍の存在は憲法違反ということになる。砂川事件の第一審判決(1959年3月30日)の見解がこれであった。しかし最高裁の上告審判決(1959年12月16日)は、戦力とは日本固有の戦力のみをいうとして、アメリカの軍隊はこれに該当しないと判示している。
[池田政章]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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