味気無(読み)あじきない

精選版 日本国語大辞典 「味気無」の意味・読み・例文・類語

あじき‐な・い あぢき‥【味気無】

〘形口〙 あぢきな・し 〘形ク〙 (「味気」はあて字) 今更どうにもならない状態や、それに対するあきらめを含んだ不満な気持をいう。あじけない。
① 乱暴で手がつけられない。道にはずれていて、どうにもならない。
書紀(720)神代上(水戸本訓)「素戔嗚尊、汝(いまし)甚無道(アチキナシ)
源氏(1001‐14頃)若紫「わが罪のほどおそろしう、あぢきなきことに心をしめて生ける限りこれを思ひなやむべきなめり」
※書陵部本名義抄(1081頃)「無端 アヂキナシ」
② 努力するかいがない。する意味がない。無益、無用だという感じだ。
古今(905‐914)春上・三四「やど近く梅の花植ゑじあぢきなくまつ人の香(か)にあやまたれけり〈よみ人しらず〉」
方丈記(1212)「さしもあやふき京中の家をつくるとて、宝を費し、心を悩ます事は、すぐれてあぢきなくぞ侍る」
③ 自分の気持に反していておもしろくない。ゆとりや味わいに乏しくて風情がない。情けない。あじけない。
伊勢物語(10C前)八九「人知れず我こひ死なばあぢきなくいづれの神になき名おほせん」
※枕(10C終)七九「あぢきなきもの わざと思ひ立ちて宮仕に出で立ちたる人の、物憂がり、うるさげに思ひたる」
④ 胸がしめつけられるように耐え難い。やるせない。
狭衣物語(1069‐77頃か)一「在五中将の恋の日記を、いとめでたう書きたるなりけりと見るに、あぢきなく」
⑤ やるせないほどに魅力的である。何とも言えず美しい。
※玉塵抄(1563)二六「天気もよいころにあたたかに世界も花などの香がにをうてあぢきなうなって花はさきみだれて」
[語誌]「万葉集」に見える「あづきなし」(「小豆無」などと表記)が転じたものか。「日本書紀」の「無道」「無状」にあてた古訓や古辞書などの「無端」「無情」の訓みなどを始め、平安時代以降には「あぢきなし」となり、現代語の「あじけない」は、さらにこの語が転じたもの。
あじきな‐が・る
〘他ラ四〙
あじきな‐げ
〘形動〙
あじきな‐さ
〘名〙

あじき‐な あぢき‥【味気無】

(形容詞「あじきない」の語幹。感動表現に用いられる) どうしようもないこと。無益なこと。気にくわないこと。情けないこと。
※宇津保(970‐999頃)蔵開上「あなあぢきなの御物はぢや」
※源氏(1001‐14頃)朝顔「つねなき世にかくまで心おかるるもあぢきなのわざや」

あじけ‐な・い あぢけ‥【味気無】

恋慕ながし(1898)〈小栗風葉〉一七「人は知らぬが、彼の其夜の夢は云方も無く味気無(アヂケナ)いものであった」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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