改訂新版 世界大百科事典 「子囊」の意味・わかりやすい解説
子囊 (しのう)
(1)植物学用語。子囊菌類において有性生殖の後に生じる袋状の胞子囊 ascus。多くの場合,円筒形または棍棒状で内部に8個の子囊胞子ascosporeを生じる。雌雄の菌糸に生じた生殖細胞が接合すると,両菌糸に由来する2個の核はふつうすぐには融合せず,造囊糸という2核性の菌糸が発達する。やがて,この菌糸の先端細胞で2核が融合し,その後,減数分裂を経て8核となり,それぞれが子囊胞子の核となる。子囊はふつう多数集まり,それを多数の菌糸がとりまいた塊状の構造(子囊果ascocarp)を形成する。なお,コケ植物の胞子囊のうち,蘚(せん)類のものを蒴(さく)capsuleというのに対して,苔類のものを子囊thecaということがある。
執筆者:北川 尚史(2)動物学用語。腔腸動物,ヒドロ虫類にみられる生殖巣の一つを子囊 sporosacという。ヒドロ虫類でクラゲ世代が退化しているものでは,ヒドロ茎から分枝した子茎あるいはヒドロ花に生殖巣である子囊が出芽する。これが発育して生殖腺が熟し,有性生殖を行う。子茎上に生じたクラゲが遊離しないで,子囊に退化する場合もある。クダウミヒドラ,ハネウミヒドラ,ウミサカズキ,ギサンゴほか多くの種類が子囊を生じる。
執筆者:今島 実
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報