動物の生殖に関与する雌雄の配偶子細胞を生産・放出して受精に役だてるとともに、生殖器官の発達、雌雄の性徴、性行動を誘発するホルモンを分泌する器官をいう。医学では性腺ということが多い。生殖腺は雌では卵巣、雄では精巣といわれ、それぞれ卵(卵子)と精子を形成する。高等動物では卵巣と精巣は別の個体にできる(雌雄異体)が、下等動物では同一個体内に両性の生殖腺を有するものがある。ミミズやサナダムシは精巣と卵巣を常備している(雌雄同体)。カキではまず精巣が発達して精子を放出し、そのあとで卵巣が発達して卵をつくる。また精巣と卵巣が交互に発達を繰り返すフナクイムシのような動物もある。ウィッチE. Witschiは、脊椎(せきつい)動物の生殖腺は体腔(たいこう)上皮が突出してできた生殖隆起から分化するが、雄性染色体があると生殖隆起の上皮細胞が中心部に侵入し、そこで細精管をつくって表層細胞の発達を抑え、雄性染色体がないと中心部が退化して表層の細胞が卵巣をつくる、という説をたてた(1956)。しかし、ジョストA. Jostらはこの説を疑問視している(1972)。
脊椎動物の生殖腺は内分泌腺としても重要である。卵巣の濾胞(ろほう)(卵胞)からは発情ホルモン(卵胞ホルモン)、黄体からは黄体ホルモン、間質からは少量の雄性ホルモンが分泌される。精巣の間細胞(ライディッヒ細胞)からは雄性ホルモンが分泌される。これらの性ホルモンの分泌は下垂体の生殖腺刺激ホルモンによって刺激される。さらにこの刺激ホルモンの分泌は視床下部の放出因子によって刺激される。発情ホルモンは子宮、腟(ちつ)、乳腺の発達を促進し、黄体ホルモンは卵の着床や妊娠の維持に不可欠である。雄性ホルモンは精子形成や雄の生殖器官の発達を刺激する。ある種のニワトリでは機能的な左側の卵巣を摘出すると、退化的であった右の卵巣が精巣になることがある。また、メダカでは性ホルモン処理によって、遺伝的な雄が雌に、雌が雄に性転換することが知られている。
ヒトの卵巣は骨盤内に1対あり、靭帯(じんたい)で子宮と結合されていて、月経周期ごとに通常1個の卵子を排卵する。ヒトの卵子は比較的に大形で、直径が0.12ミリメートルもある。排卵寸前の内腔(ないくう)液で膨らんだ直径12~18ミリメートルの大形濾胞をとくにグラーフ濾胞という。ヒトの精巣(睾丸(こうがん))は通常陰嚢(いんのう)内に下降しているが、まれには腹腔内に停留した潜伏睾丸もある。睾丸は結合組織性の隔壁で200~250の小葉に分かれている。各小葉中の細精管の長さは30~70センチメートルもある。
[高杉 暹]
生殖腺は雄では精巣,雌では卵巣として発達を遂げるが,その主要な過程は生殖細胞を分裂増殖させる段階とその後これら生殖細胞を減数分裂によって配偶子として成熟させる段階がある。これらの発達過程は生殖腺自体の分泌する性ホルモンによって制御され,同時に雌雄にみられる種々の性的特徴,例えば雄の輸精管や精囊,雌の輸卵管や子宮など生殖付属器官や外部形態の発達も個体の成熟にともなって生殖腺から分泌される性ホルモンによって支配される。このような精巣と卵巣のはたらきは表面的にはきわめて大きな差があるようにみえるが,これら器官の発達やホルモン合成のしくみは雌雄間でごくわずかの違いしかない。脊椎動物の生殖腺の原基は,腹腔背壁から突出する1対の隆起とこの表面を包む原始的な生殖細胞とからできている。この原基の皮質または髄質がおのおの発達して卵巣または精巣へ分化する。女性ホルモンはその合成過程の中で一度男性ホルモンの形を経てからできる。
執筆者:浦崎 寛
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