尾張屋版切絵図(読み)おわりやばんきりえず

日本歴史地名大系 「尾張屋版切絵図」の解説

尾張屋版切絵図
おわりやばんきりえず

解説 尾張屋版のうち例えば芝三田二本榎高輪辺絵図(題簽は芝高輪辺絵図全)は三四・七×六九・〇センチ(寸法は図によって異なるが、たたんだ寸法は一八・五×九・〇センチで全図同じ)。木版色刷(紙地色とも七色)、尾張屋清七(ときに金鱗堂を冠称)刊行。三井文庫ほか蔵。尾張屋版は文久元年改正の大名小路神田橋内内桜田之図(題簽は御江戸大名小路絵図全)に始まり、明治元―三年の東京版まで地域・地名ごとの合計で約一三〇板種が知られる。分割の違いと明細図が加わり、全域二六枚・二八枚・三一枚の各揃いがあるが、刊記外の改訂もあって板数は定めにくい。尾張屋は絵草紙店で近吾堂に五年遅れて版行開始、街況を弁別しやすい華美な彩色とランドマークの実体描写、大名紋の記入などで江戸図史上空前の量を販売した。方位や実空間距離などの正確さよりも、地域の一体性を尊重して徒歩交通の順路などが納得しやすく、歪めても一紙面の記載充実に徹底し、いわば心象距離尊重の地図として成功した。永井荷風は大正時代まで愛用したという。多数の復刻・翻刻があるが、普及している模写・書起しの分には写落ちもある。

出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報

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