日本大百科全書(ニッポニカ) 「抗EGFR抗体薬」の意味・わかりやすい解説
抗EGFR抗体薬
こういーじーえふあーるこうたいやく
がんの治療に用いられる分子標的治療薬の一種。EGFRは上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor)の略で、正常な組織では細胞分化、増殖、維持にかかわっている。一方で、大腸がんの約80%に高発現することが知られており、大腸がん組織の機能を亢進(こうしん)させ、がんの増殖、浸潤、転移、血管新生などに関与している。
抗EGFR抗体薬には、セツキシマブ(商品名:アービタックス)とパニツムマブ(商品名:ベクティビックス)があり、いずれもEGFRを標的としたモノクローナル抗体薬である。切除不能な進行・再発大腸がんに対して用いられ、セツキシマブについては頭頸(とうけい)部がんにも適応がある。
薬剤の有効性には、がん遺伝子であるRAS(KRAS、NRAS、HRAS)遺伝子変異が大きくかかわっている。RAS遺伝子変異を認めない患者(野生型)は、抗EGFR抗体薬投与により治療効果(生存期間の延長、無増悪(むぞうあく)生存期間の延長など)が得られることが期待される。投与を検討する際には、事前にRAS遺伝子検査を行い、そのうえで、遺伝子変異のない(RAS野生型)患者に対してのみに適応される。なおRAS遺伝子検査は、2015年(平成27)4月に保険適用となっている。
[渡邊清高 2019年8月20日]