大腸がんの治療では、内視鏡治療、外科療法(手術)、薬物療法(抗がん薬治療)がおもに考慮される。治療法の選択には、がんの進行度(病期分類)や全身状態、通過障害(腫瘍のために腸管の内容物が通過しにくくなって起こる便秘などの症状)の有無など、さまざまな要素が考慮される。治療の選択の目安として、「大腸癌治療ガイドライン」(大腸癌研究会編)では、病期ごとに推奨される方法が提示されている。
(1)内視鏡治療
リンパ節転移の可能性がほとんどなく、腫瘍が一括切除できると判断できる場合、内視鏡治療の適応となる。粘膜内がんまたは粘膜下層への軽度浸潤がんがこれに相当する。内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)は、キノコ状に隆起した腫瘍の茎の部分にスネアとよばれる輪状の細いワイヤーをかけて、高周波電流を流して切り取る。内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、茎をもたない平たい腫瘍の粘膜下層に生理食塩水などを注入し、筋層から持ち上げてからスネアを使って切除する。
EMRでは切除がむずかしい2~5センチメートルの大きさの腫瘍には、内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術(ESD)を行う。病変周囲の粘膜下層にヒアルロン酸ナトリウム溶液などを注入して筋層から持ち上げ、専用の電気メスを用いて粘膜下層を剥離していき腫瘍を一括切除する。
内視鏡治療は大腸の内側から病変を切除するため、開腹で行う手術と比較して治療に必要な入院期間が短く、腸管の機能が温存され、身体への負担の少ない治療といえる。一方で、出血や穿孔(せんこう)などの合併症、病変の遺残が起こる可能性がある。
切除した組織は病理検査・病理診断がなされ、リンパ節転移やがん遺残の可能性があると判断される場合は、リンパ節郭清(かくせい)を伴う腸管切除が追加で行われる。
(2)外科療法(手術)
大腸がんに対する手術では、がんのある部位の腸管を周囲のリンパ節とともに切除(リンパ節郭清)する。リンパ節郭清の程度は、深達度やリンパ節転移の有無によって分けられる。手術中にリンパ節転移の有無を病理診断し、そのうえで切除の程度を決定する場合もある(術中迅速診断)。腫瘍の進展の程度が広がれば、郭清を必要とする範囲が広範になる。たとえば、腫瘍が粘膜下層にとどまっているときは、腸管そばのリンパ節と流入する栄養血管に沿った中間リンパ節が郭清される。腫瘍が固有筋層に及んでいる場合には、栄養血管の根元にある主リンパ節まで郭清される。固有筋層を貫く深い深達度のものや、術前・術中診断でリンパ節転移を認める、または疑う場合にも主リンパ節までの郭清が推奨されている。
結腸がんでは、病変部から両側に10センチメートルほど離れたところの腸管を切除し、両端を吻合(ふんごう)する(つなぎ合わせる)。切除の範囲が小さい場合には術後の機能障害はほとんどみられない。切除する範囲によって、回盲部切除術、結腸右半切除術、横行結腸切除術、結腸左半切除術、S状結腸切除術などがある。開腹手術ではなく、腹腔鏡下手術が行われる場合もある。
直腸の早期がんでは、直腸局所の切除術が行われることがある。腫瘍が肛門に近い場合は経肛門的切除、さらに奥にある場合は、うつぶせの状態で尻側から切開する経仙骨的切除や経括約筋的切除が行われる。
前方切除術は、腹側からアプローチして直腸を切除し両端を吻合する一般的な方法で、腸を吻合する位置によって高位前方切除術と低位前方切除術に分けられる。腫瘍が肛門の近くにある場合は、肛門を含めて腫瘍を切除する直腸切断術が行われ、人工肛門(後述)が造設される。括約筋間直腸切除術という、腫瘍を切除して根治性を保ちつつも、肛門括約筋を全部または一部温存可能な特殊な術式もある。直腸付近には排尿機能や性機能の働きを調整する神経(自律神経)があるため、術中に自律神経を確認しながら、根治性が損なわれない範囲での自律神経温存術が行われる。これにより、排泄(はいせつ)・性機能障害が軽減し、術後の生活の質(クオリティ・オブ・ライフ:QOL)が向上してきている。
切除した組織を精査し、リンパ節転移が認められる場合には、再発予防のための術後補助化学療法(後述)が推奨されている。
手術に伴う合併症として、治療直後には、縫合不全、腸閉塞、創感染などが起こることがある。後遺症としては、手術時の自律神経損傷による直腸膀胱障害、性機能障害がみられることがある。また、直腸を温存した場合でも、排便障害が生じる場合もある。
(3)薬物療法(抗がん薬治療)
薬物療法(抗がん薬治療)には、手術後の再発抑制を目的とした術後補助化学療法と、切除不可能な進行・再発大腸がんを対象にした症状緩和を目的とした薬物療法がある。
大腸がんに対する化学療法の基本となる薬剤はフルオロウラシル(5-FU)であり、内服、静脈注射(静注)、点滴による持続静注の3種類の投与法がある。体内で代謝されて5-FUとなり薬効を示す内服薬には、テガフール・ウラシル配合剤(UFT)、ドキシフルリジン(フルツロン)、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤S-1(TS-1)、カペシタビン(ゼローダ)、トリフルリジン・チピラシル塩酸塩(ロンサーフ)などがある。5-FUの注射薬はレボホリナート(アイソボリン)とともに用いられ、これにオキサリプラチン(エルプラット)を組み合わせたものをFOLFOX(フォルフォックス)療法、イリノテカン(トポテシン、カンプト)と組み合わせたものをFOLFIRI(フォルフィリ)療法といい、大腸がんに対する化学療法として広く実施されている。
また近年、分子標的治療薬という新しいタイプの抗がん薬が用いられるようになっている。細胞増殖シグナル経路やがん細胞に特異的に発現している分子を標的とした治療薬であり、従来の殺細胞性の化学療法と併用したり、単独で用いられる。大腸がんに対して用いられる分子標的治療薬には、ベバシズマブ(アバスチン)、ラムシルマブ(サイラムザ)、アフリベルセプト(ザルトラップ)、レゴラフェニブ(スチバーガ)などがある。RAS遺伝子変異のない野生型の大腸がんに対しては、セツキシマブ(アービタックス)やパニツムマブ(ベクティビックス)が用いられることがある。
(a)術後補助化学療法
術後補助化学療法は、治癒・切除後の再発を抑制し予後を改善する目的で、手術後に行われる全身化学療法である。ステージⅢの大腸がん、または再発リスクが高いステージⅡの大腸がんに対し、肝臓や腎臓などの主要臓器機能が保たれている場合に行われる。手術後4~8週目から経口(内服)あるいは経静脈的に抗がん薬の投与が開始され、一定期間継続される。
(b)症状緩和を目的とした薬物療法(抗がん薬治療)
手術による切除が不可能と判断された進行・再発大腸がんに対する薬物療法の目標は、腫瘍の増大を遅らせ、延命と症状コントロール(症状の緩和)を行うことである。適応となる転移部位は、肝臓、肺、リンパ節、腹膜、局所などがある。主要臓器の機能が保たれていて、病巣が画像検査で評価できる場合に実施される。薬物療法が奏効し、切除可能と判断された場合には手術が実施されることもある。
薬物療法が奏効する場合や、腫瘍の増大が抑えられて状態が安定しており有害事象(副作用)が許容される場合は、原則として同じ薬物療法が継続される。病変の増大や新たな病変の出現、有害事象の出現などにより継続が困難となった場合には、別の治療方法(レジメン)が検討される。
薬物療法の選択は、腫瘍因子(腫瘍の大きさ、分布、転移の有無、過去の治療に対する効果の程度など)と患者因子(全身状態、主要な臓器の機能、併存疾患の有無、有害事象発生のリスク、本人の意向など)の両面から、十分なインフォームド・コンセントのもとで検討される。
(4)放射線療法
放射線療法についても、手術の補助的な位置づけで行われるものと、症状の緩和を主目的に行われるものがある。
(a)補助放射線療法
補助放射線療法は、直腸がんに対する手術後の再発抑制や、術前の腫瘍量減少、肛門機能の温存を目的に行われる。照射の時期によって術前照射、術中照射、術後照射に分けられる。薬物療法(抗がん薬治療)と併用して行われる場合もある。
(b)緩和的放射線療法
緩和的放射線療法は、切除不能進行・再発大腸がんの症状緩和や延命を目的として行われる。骨盤内病変による痛み(疼痛(とうつう))、出血、通過障害の緩和や、骨転移による痛み、脳転移による神経症状などを改善する目的で行われる。
[渡邊清高 2018年6月19日]
(1)進行した大腸がんに対する治療方針
進行した大腸がんでは、肝転移、肺転移、腹膜播種、脳転移、遠隔リンパ節転移、骨・副腎・脾臓(ひぞう)などへの転移がみられる。全身状態や病変による症状の有無、治療に伴う効果(症状の緩和、予後の向上など)などを踏まえて治療方針が検討される。
転移巣・原発巣ともに切除可能な場合には両方の切除が行われることがある。転移巣は切除できないが原発巣の切除が可能な場合は、原発巣の臨床症状や予後への影響を考慮のうえ原発巣のみ切除し、転移巣に対しては薬物療法や放射線療法など他の治療法が実施される。原発巣の切除が不可能な場合は、原則として手術は行われず、薬物療法や放射線療法など他の治療法が選択される。
原発巣が残存している場合には、経過とともに腸閉塞・出血といった症状がみられることがあり、バイパス手術、人工肛門の造設などが行われる場合がある。
進行大腸がんで切除不能と判断され、薬物療法(抗がん薬治療)による治療が先行する場合でも、治療が奏効し切除が可能になる事例もあり、その場合、根治やQOLの向上を目ざした手術が検討される。
(2)再発した大腸がんに対する治療方針
再発した大腸がんに対する治療の目的は、生命予後の延長とQOLの改善である。病変の分布や再発様式、全身状態、期待される予後、治療後のQOLなどさまざまな要素が考慮され治療方針が検討される。
再発臓器が限られ、手術で切除が可能である場合には積極的な治療が考慮される。手術治療が行われるのは、再発臓器が一つで切除可能な場合が原則であるが、再発が2臓器以上であっても実施されることもある。切除不可能な場合は、薬物療法(抗がん薬治療)のほか、局所療法として肝動注療法、熱凝固療法、放射線療法などが行われる。
[渡邊清高 2018年6月19日]
大腸がんの血行性転移には、肝転移、肺転移、脳転移、その他の臓器(骨、副腎、皮膚、脾臓など)への転移がある。原発巣の切除後、あるいは薬物療法によって制御可能、転移巣に対する治療により症状緩和が期待される場合に、転移巣への治療が検討される。
(1)肝転移
転移巣をすべて切除でき、術後の肝臓の機能が保たれ、かつ手術に耐えられると判断される場合には、肝転移巣の切除が考慮される。転移巣の数、大きさ、分布、肝機能を踏まえて手術の可能性が検討される。全身状態が良好であっても切除が不可能であれば、薬物療法(抗がん薬治療)が考慮される。
手術以外の局所療法としては、肝動注療法、熱凝固療法、ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法、放射線療法などがある。薬物療法の奏効により、切除可能となる場合もある。全身状態が不良な場合は対症療法(症状に応じた治療)が行われる。
(2)肺転移
転移巣をすべて切除でき、術後の呼吸機能が保たれ、かつ手術に耐えられると判断される場合には、肺転移巣の切除が考慮される。転移巣の数、大きさ、分布、呼吸機能などを踏まえて切除範囲が検討される。全身状態が良好であっても切除が不可能であれば、薬物療法が考慮される。
手術以外の局所療法としては、放射線治療などがある。全身状態が不良な場合は対症療法が行われる。
(3)脳転移
脳転移を有する大腸がん患者の9割は他の臓器への転移も伴っており、脳転移に対する切除を行っても予後の改善効果は限られる。治療による効果が期待される場合には脳転移に対する治療が検討される。治療効果が期待される病変について、脳転移切除または放射線療法が行われる。転移巣の部位、大きさ、分布、数、全身状態、他臓器への転移、年齢、神経症状や頭蓋(とうがい)内圧亢進(こうしん)症状(頭痛、嘔気(おうき)、意識障害など)の有無などを考慮し治療方針が検討される。放射線療法には全脳に広く照射する全脳照射と、CTやMRIなどの画像をもとに小さい範囲に限局して放射線を照射する定位放射線照射がある。
[渡邊清高 2018年6月19日]