日本大百科全書(ニッポニカ) 「教権ファシズム」の意味・わかりやすい解説
教権ファシズム
きょうけんふぁしずむ
Klerikofaschismus ドイツ語
資本主義の発達が相対的に遅れたヨーロッパのカトリック諸国における、極右保守勢力とカトリック教会の連合勢力によって樹立された、権威主義体制の一種。1929年の世界的大不況後、社会主義労働運動の急進化がみられたカトリック諸国、とりわけスペイン、ポルトガル、オーストリアではカトリック聖職者とそれぞれの国の保守勢力が結んで議会制民主主義体制を否定し、教権支配を土台に権威主義的反動体制を確立した。それはカトリシズムの普遍主義を理論的基礎とする権威主義体制の一種ではあるが、ナチズムとは反共産主義、反マルクス主義の点で共通するものをもってはいるものの、その人種主義的民族主義とは相いれない側面をもっていた。オーストリアのシュパンの普遍主義的全体主義がナチスによって批判されたゆえんもここにある。
[安 世舟]