カトリシズム(読み)かとりしずむ(英語表記)Catholicism

翻訳|Catholicism

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カトリシズム」の意味・わかりやすい解説

カトリシズム
Catholicism

カトリック主義ともいい,主として次の3つの意味がある。 (1) 「普遍的,全体的」というカトリックの原意から,時間的には初期教団からの伝統を総括し,空間的には全世界の人類を包含し,教理的には初期のすべての普遍公会議の信仰を完全に保持するのがキリストの真の教会であるとする立場。地域教会に対する世界教会,異端・離教に対する正統教会の意味でとらえられる。歴史的にはローマ帝国公認教会,つまり 1054年東西両教会が決定的に分裂する以前の教会の立場で,現在でも大部分カトリック教会はそれぞれなんらかの意味でこの立場の継承者であることを主張している。 (2) 教皇ペテロの後継者として全教会に対し,単に名誉上だけではない法的な裁治権をもち,無謬権をそなえ政治権力をさえ有するとの考えのもとに,特に中世に発達した神学的・法的思想の総体。ギリシア正教主義やプロテスタンティズムに対立する概念としてとらえられる。この場合,ローマ・カトリシズムと呼ばれることが多い。 (3) アウグスチヌストマス・アクィナス政治哲学を根拠とし,特有の倫理観や自然法思想をもつ理念。原理的な意味から離れ,フランス革命以降,自由・平等の理念に反対し続けるという反動的役割を演じた。 J.メーストルや L.ボナールはその先駆者で,教権主義に基づく国家理念を鼓吹。次いで H.ラムネにいたって進歩思想への接近が行われたが,のちにドレフュス事件に際してカトリック教会は軍部,反ユダヤ主義者,大地主階級と結託して反動性を遺憾なく発揮した。やがて 20世紀に入ると,カトリシズムは自由放任的資本主義に反対するとともに共産主義無神論に対して妥協のない戦いを開始した。スペイン,ポルトガルなどのカトリック教会も,教権ファシズムと呼ばれる全体主義的政治理念によって労働者階級と対決する。近年,とりわけ第2バチカン公会議 (1962~65) 以後ヨーロッパのカトリック思想界は反動性を脱却し,社会正義やヒューマニズムに基づく政治運動に理解を示しはじめたが,カトリック世界の内部では,このような教会当局の姿勢に満足せず,より一層の転換を求める解放の神学のような運動も現れている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カトリシズム」の意味・わかりやすい解説

カトリシズム
かとりしずむ
Catholicism

キリスト教の諸教派のうち、ローマ教皇の下に統一されているカトリック教会の体制、教義、またそこに理論的根拠をもつ思想などを一般的にさす。教皇の至上権を認めないプロテスタンティズムとの対立概念。ただしカトリック教会の公用語としては用いられないので、この立場からすれば、教会または信者の社会的、文化的活動の意味に限定される。

 思想としてのカトリシズムは、中世を通じてしだいに形成され、トマス・アクィナスによって古典的に完成された。神を頂点とし、すべての存在が神を目ざして運動するという神学的世界像、自然法思想、政治思想における共通善概念などがその特徴である。しかし、トマス思想は近代に入るとスコラ主義として硬化する。フランス革命以降、カトリシズムはしばしば反動思想となり、とくにマルクス主義成立以降は、無神論反対とも結び付いて強く反社会主義的であった。しかしラムネやラコルデールなどフランス19世紀の自由カトリシズム、20世紀初頭フランスやドイツでのネオ・トミズム(新トマス主義。とくに社会の階級分裂克服のために、トマス・アクィナスの共通善概念の意義を強調し、また社会と個人・人格の調和的発展を主張する法哲学および政治思想上の運動)などには、独自の社会批判とヒューマニズムがある。現代では第2回バチカン公会議(1962~65)以降の諸教会合同運動(エキュメニズム)への動き、ベトナム戦争以後の、日本も含めて各国教会内での人権と平和主義志向などもあり、カトリシズム全体としては保守的ではあるが、内部には多様性が目だっている。

[半澤孝麿]

『J・ダニエル、J・ホル、J・プーパル著、朝倉剛・倉田清訳『カトリック――過去と未来』(1981・ヨルダン社)』『K・v・アーレティン著、沢田昭夫訳『カトリシズム――教皇と近代世界』(1973・平凡社)』『糸永寅一他監修『ヨーロッパ・キリスト教史』全六巻(1970~72・中央出版社)』『上智大学宗教思想研究所編・訳・監修『キリスト教史』全11巻(1980~82・講談社)』

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