デジタル大辞泉 「カトリシズム」の意味・読み・例文・類語
カトリシズム(Catholicism)
1 ローマ教皇を最高首長と仰ぐローマ‐カトリック教会の宗教的、思想的な立場。カトリック主義。
2 政治・経済・社会・文化などでの、カトリックの立場に基づく活動の総称。
翻訳|Catholicism
カトリック信仰にもとづく世界観もしくは思想体系。〈カトリシズム〉という言葉は,プロテスタンティズム,およびギリシア正教にたいして,カトリック的キリスト教あるいはローマ・カトリック教会の教えそのものを意味する場合もあるが,ここでは今日のより一般的な慣用に従って,カトリック教会の教え,つまり信仰内容と内面的に結びついてはいるが,それから区別された文化的,思想的営みの意味に解する。この意味でのカトリシズムは,世俗的な自由主義・個人主義,反宗教的なマルクス主義と対決する〈イデオロギー〉と解されることもある。〈イデオロギー〉としてのカトリシズムは,人間中心的であるよりはむしろ神中心的であり,進歩よりはむしろ伝統を優先させ,個人の自由で多様な表現や創意よりはむしろ画一的な教義や不変の権威を重視する,との印象を与えがちで,保守反動的,権威主義的な思想として批判されることが多い。〈カトリックcatholic〉が〈普遍的〉を意味するギリシア語katholikosから来た言葉であることを想起するとき,カトリシズムのこのような〈特殊性〉〈党派性〉にたいする批判は歴史の皮肉とも感じられる。じっさいに〈カトリック〉という言葉は〈一〉〈聖〉〈使徒伝来的〉などとともに,地域,時代,民族,人種その他すべての人間的条件にもとづく特殊性を超え出る,教会の〈普遍性〉というしるしを指示するために用いられてきた。しかし,その場合でも教会の〈カトリック性〉とは,万人に救いをもたらすキリストの〈普遍性〉にもとづく可能性であって,それが完全に実現されるのはただ世の終りにおいてであることが承認されていた。まして歴史的偶然性の制約の下にある人間の文化的,思想的営みとしてのカトリシズムが,最終的な〈普遍性〉を実現もしくは要求しえないことはいうまでもない。
だがカトリシズムの〈カトリック性〉は思想内容を指示する言葉として理解することも可能である。それは,日常的経験,科学的探求,神秘的観想,神的啓示など,いかなる経路,方法を通じて到達されたものであろうと,およそすべての真理にたいしてみずからを根元的に開こうとする態度を核心とするところの思想であり,一言でいえば〈超越〉の思想である。〈神の死〉を自明の前提とする〈内在主義〉--唯物論,観念論,進化論,自然主義の諸形態をふくめて--が人間を最高の存在へたかめるのにたいして,カトリシズムは人間が〈創られたもの〉〈神のかたどり〉であることの自覚から出発し,そこに人間の卑小と偉大,悲惨と栄光を読みとる。万物は神を離れては虚無であるが,全宇宙のなかで人間だけがそのことを自覚する能力をもち,この能力が人間を超越者たる神との合一にいたるまでやむことのない探求へとかりたてる。しかしこの合一は根本的に神の恩寵によるものであり,人間の本性そのものである〈超越への能力〉は〈恩寵受容性〉にほかならない。この意味での〈超越〉を証言し,弁証するところに現代思想としてのカトリシズムの意義がある。
→キリスト教
執筆者:稲垣 良典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
キリスト教の諸教派のうち、ローマ教皇の下に統一されているカトリック教会の体制、教義、またそこに理論的根拠をもつ思想などを一般的にさす。教皇の至上権を認めないプロテスタンティズムとの対立概念。ただしカトリック教会の公用語としては用いられないので、この立場からすれば、教会または信者の社会的、文化的活動の意味に限定される。
思想としてのカトリシズムは、中世を通じてしだいに形成され、トマス・アクィナスによって古典的に完成された。神を頂点とし、すべての存在が神を目ざして運動するという神学的世界像、自然法思想、政治思想における共通善概念などがその特徴である。しかし、トマス思想は近代に入るとスコラ主義として硬化する。フランス革命以降、カトリシズムはしばしば反動思想となり、とくにマルクス主義成立以降は、無神論反対とも結び付いて強く反社会主義的であった。しかしラムネやラコルデールなどフランス19世紀の自由カトリシズム、20世紀初頭フランスやドイツでのネオ・トミズム(新トマス主義。とくに社会の階級分裂克服のために、トマス・アクィナスの共通善概念の意義を強調し、また社会と個人・人格の調和的発展を主張する法哲学および政治思想上の運動)などには、独自の社会批判とヒューマニズムがある。現代では第2回バチカン公会議(1962~65)以降の諸教会合同運動(エキュメニズム)への動き、ベトナム戦争以後の、日本も含めて各国教会内での人権と平和主義志向などもあり、カトリシズム全体としては保守的ではあるが、内部には多様性が目だっている。
[半澤孝麿]
『J・ダニエル、J・ホル、J・プーパル著、朝倉剛・倉田清訳『カトリック――過去と未来』(1981・ヨルダン社)』▽『K・v・アーレティン著、沢田昭夫訳『カトリシズム――教皇と近代世界』(1973・平凡社)』▽『糸永寅一他監修『ヨーロッパ・キリスト教史』全六巻(1970~72・中央出版社)』▽『上智大学宗教思想研究所編・訳・監修『キリスト教史』全11巻(1980~82・講談社)』
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