改訂新版 世界大百科事典 「籠形化合物」の意味・わかりやすい解説
籠形化合物 (かごがたかごうぶつ)
cage compound
分子全体が鳥かごのようにC-C結合などの化学結合でかこまれている化合物。天然には,石油から産出するアダマンタンC10H16(図(1))などがある。人工的に合成された最小のかご形化合物としては,ベンゼンの原子価異性体であるプリズマンC6H6(無色透明の液体。1973年に合成され,プリズムのような形をしているのでこの名が付けられた。図(2))がある。プリズマンは3員環を含んでいるためひずみが大きく,加熱すると爆発的に分解する。立方体cubicの形をしたキュバンC8H8(図(3))は1964年に合成された安定な化合物である。ブルバレンC10H10(図(4))も同じ年に合成され,3個のC=C二重結合を含むかご形化合物で,分子内コープ転位によって10個の炭素がすべて等価になっている。テトラヘドランC4H4(図(5))は理論的に最小のかご形化合物,ドデカヘドランC20H20(図(6))は正十二面体のかご形化合物である。ドデカヘドランは1982年に合成されたが,テトラヘドランはひずみが大きく不安定なため,まだ合成されていない。
執筆者:友田 修司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報